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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

野菜室

連休合間の月曜日、可愛いチワワが来ました。でもうつむいて元気がありません。2,3日具合が悪いそうです。

「なんだかお腹が張って、出血もあって様子がおかしいのですが・・・」

「ふーむ、かなり大きなお腹ですね。エコーで見ると膀胱の両側に何かが貯まったような構造物がありますから、おそらく子宮感染でしょう。」

体重わずか5kgの体の腹部がパンパンに張り出して、いかにも苦しそうです。

これは今日中に緊急手術をしたほうが、良さそうです。

夜九時になり診療が終わるとすぐ手術にとりかかりました。麻酔をかけ手術台に寝せます。いつもどおり術野を消毒し、血圧を下げないよう気をつけながらメスを入れ開腹すると、白い大きな風船状の組織が見えました。やはり膨らんでいるのは子宮のようです。

「さあ、とり出すぞ。・・・・むむ、出てこないなあ。これは巨大だ。巨大すぎる。もう少し大きく切開だ。・・・むむむ、まだだめか。

あんまり子宮を引っ張ると、破裂しそうだ。もう少し切開線を広げよう・・・う、やっと出てきたぞ・・・」

まるで水風船を三つも四つも繋げたように大きな子宮がやっと表に出てきました。私たちは破裂や出血に気をつけながら少しづつシールし切除します。

「すごい、先生、593gもあります。」

切除した子宮卵巣を測定したカメ子が大きな声で報告する。体重の12%にも匹敵する重さです。

「休み明けに飼い主さんに見てもらうまで、子宮は保存しないといけないね。」

「じゃあ、冷蔵庫に入れておきます。」

こうしてチワワの手術は成功し、日に日に元気になった。

それから四日間、膿みの充満した蓄膿子宮は冷蔵庫の野菜室を占領していた。それで、スタッフ達のいつも入れているお茶やお菓子は、カメ子が上の棚にすっかり引越しさせたようだ。

ところが今日、いつものようにお茶の時間を終わるとタマエがまたお菓子を野菜室に戻そうとしている。

「ああ、だめよ! そこは今日は子宮が入ってるから、そこには入れないで。」

大抵のものなら何でも口にするマル子だが、今日はあわてて止めに入った。

「はい、あ、上ですね。」

その後に残ったゼリーをまとめると、タマエはそれも野菜室にもどす。

目を光らせていたマル子がまた慌てて止める。

「あの、だからそこに入れちゃあ、駄目ってば!」

「あ、はい、これも上ですか?」

どうやらタマエは冷蔵庫の子宮には動じてないようです。

傍からそれを見ていたカメ子が、ニヤニヤしながら話してくれた。

「先生、マル子はだいぶ真剣ですよ。普段仕事中にみないほどの真剣さで、タマエにお菓子のなおし場所を指導していますよ。

今日のマル子は、かなり本気ですね、私の感じでは。」

かくして、連休明けの仕事は始まったのです。
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