SSブログ

聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

気がかり

「先生、あのね、この頃よくリリーちゃんが吐くのよ、ちょっと診てくださいますか?」

小柄なマダムKがおいでになりました。その後から、ご主人が12歳になる真っ白な雌猫の入っタキャリーを、背を曲げ重そうに下げてお出でになりました。

「ふうむ、元気はあるんですね? 食べるけど吐くのですか? 下痢はしてないんですね。・・・」

お話しを聞きながら、並行して血液検査もしました。

白血球数は正常範囲、アミラーゼがちょっと高めぐらいで、大きな異常は見つかりません。
昨年も同じ頃に同じ症状があったので、胃の薬で様子を見てもらうことにしました。

カウンターでお薬を渡していた時です。

「私の腰も良くないんですが、この子より早く死ぬわけにはいかないと思ってね、フフフ・・・。」

マダムは昭和の3年生れだそうです。脊柱に狭窄を持ちなんとか腰痛を治したいけれど、知人の幾人かがやっぱり腰痛だったとかで、あちこち九州の専門病院で手術を受けたけど、あまりいい結果にならなかったとのことで、薬だけで耐えているようです。

「だからね、私は、もうよっぽどでないと、手術はいいのよ。薬を飲んで、我慢しようと思っているの。

でもね、後この子が何年生きるかな? もし私が先だったらどうしよう。この子はどうなるのかな、先生に頼もうかしら・・・なんて考えているんですよ、ホホホ・・・。」

「いいえ、お二人ともまだまだ、長生きしてもらわなければいけませんが、万一の時は、この子を引き取りますから、心配しないでいいですよ。」

安請け合いかもしれないが、私はついそう返事せずにはいられませんでした。

もと銀行の頭取をされていた知人が数人おられるらしいので、私などからすれば本当に雲の上の生活をされているマダムかもしれませんが、人の悩みはやはり人それぞれです。

マダムには、リリーちゃんのことはとても気にかかるようです。
でも、きっとこのリリーちゃんが、御夫妻の健康を支えてもいるのだと思います。

杖をつきながら、タクシーに乗り込まれるご夫妻を見送りながら、私はリリーちゃんの症状がすぐ改善してくれたらいいがと願いました。
トップへ戻る
nice!(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。