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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

花屋のミヤオ

「まあ、ミヤオ君、どうしたの、その頭。血が流れてるじゃないの!」

家に帰ったら、かあちゃんが驚いた顔してそう叫んだ。
おいらはミヤオ、三歳を過ぎた雄猫だ。

「えっ? 血が流れてる? あれ、本当だ。いつの間にか、おでこに垂れてきているぞ。チェッ、さっきあいつに挨拶くれてやった時だな・・・。」

「どうしたの、どこで怪我したの!?」

「なんでもないよ、ちょっとそこで、最近顔を売り出している近所の若い奴と、すれ違っただけさ。」

「まあ大変。すぐに病院に連れて行かなくちゃ。いったいどうしたのよ」

「いいよ、かあちゃん。これぐらい、たいしたことないよ、大丈夫だったら。」

おいらはそう言ったんだけど、母ちゃんは青い顔してお店を閉め、すぐ病院に引っ張っていく。
かあちゃんのお店は花屋だ。
うちにはきれいな花がたくさんあるんだ。
で、かあちゃんはきれいな花束を作るのが上手さ。

まあ、猫にとっては花屋より、魚屋の方がありがたいけどね。それでも、店先でごろごろ喉を鳴らしているだけで、おいらは人気者なんだぜ。

「先生、うちのミヤオが大変です。血だらけで・・・。」

「おっ、出血してますね、どれどれ、何の怪我かな。
 うーむ、マダム、血液が毛にいっぱいついていますが、傷はそんなに大きくはないみたいですよ。

ほら、猫の牙の小さな丸い跡があるから、うん、これはケンカでしょう。」

「まあ、ケンカですか。それじゃあきっと、あの猫だわ。最近よくやって来る猫がいるんですよ、

この前も、うちの中に入ってこようとしてたのよ。先生、猫って、うちの中でも構わず入ってくるものですかしらね。」

「かあちゃん、わかってないなあ、猫には地境も、うちも、ないんだよ。

そこに階段があったり、戸があったり、物があったりするだけさ。誰の持ち物とか、それが家宅侵入になるとか、そんなことは猫はこれっぽっちも心配も遠慮もしないよ。

ほら、かあちゃん、人間だって、蜂が一生懸命作った巣を見ても、遠慮なんかせずにすぐ壊してとっぱらうだろ。あれは、本当は蜂の家なんだよ。

鳥が巣を作ってたって、平気で木を切るじゃないか。お互い、相手の先住権も、占有権も、認め合う事は無理なんだよ。

おい、かあちゃん、聞いてる?」

「もう、こんどあの猫が来たら、どうしようかしら。でも、そんなに悪い猫には見えなかったんだけどなあ。もう、ミヤオはお外に出せないわ。危ないわ。でも、ミヤオはもう少しケンカに強いと思ってたけど、案外弱いのね、」

「それじゃあ、化膿止めを打ちましたから、明日もう一度見せてください。」

「チェッ、おでこに絆創膏を張られちゃったよ。恥ずかしいなあ。それにかあちゃん、おいらはケンカに負けたわけじゃないよ。あいつの方が、深手を負ってるはずだぜ。

おいらの頭はちょっとかすり傷を負っただけさ。こんな大げさな事しなくていいんだよ。」

「マダム、猫エイズをもらうといけないので、明日ワクチンもうちましょう。それじゃあ、お大事に。」

「おいおい、明日も注射かよ。まいったね。かあちゃん、おいら、明日は出かけて夜まで帰って来ないからね。

かあちゃんは仕事に精出して、花を買いに来るお客さんを、喜ばせてあげてよ。」
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