草刈中に
「あーあ、まだまだ暑いわね。いやんなっちゃう。でも今日はこの公園を全部、草刈しなきゃならないから、気合入れて頑張ろう!」
八月も下旬のある日の事です。マダムFは南区の、ある大きな運動公園の草刈に取り掛かったのでした。
「ブルンブルン、ブルルル、ブイーン、ブイーーーン」
草刈機が唸り始めます。真夏の陽射しを存分に浴びて、広い公園のあちこちでは雑草が伸び放題でした。
「さあ、どこから取り掛かろうかしら・・・、じゃあ、私はグランドの方から行くね。」
いつもの通り手分けして、仕事を始めます。
「ブイーーーン、ブイーーーン」
エンジン音は快調です。
「チュルチュル、チュイーン、チュルチュルバリバリ・・・」
広場をうっそうとした草薮にしていた夏草たちは、銀色に光る回転刃によっておもしろいように刈り取られてゆき、あとには見る見るゴルフ場の芝草のような気持ちの良い広場が現われます。
小さな虫たちが慌てて飛び出し、
プーンと刈られた青草の爽やかな匂いが、公園に広がります。
「ガチッ、バキッ!」
「おっと、危ない、危ない!」
時々、捨てられた空き缶や瓶が草むらに転がっているので、うっかり機械がそれに触れると大きな音をたてて弾き飛ばしたり、あるいは草刈機の折れた刃先が飛んで行ったりして大変危険です。
首に巻いたタオルで汗を拭き拭きマダムは、草刈を続けました。途中、何度も水分を補給して休憩しながら、入道雲を見上げます。
さて、仕事を始めてから2,3時間たった頃でしょうか、
それは一瞬のことでした。
マダムが右から左に草を払いながらずんずん刈り込んでいた時、その金属の回転刃が切り開いた草むらのすれすれの所に、草と同じような色をした小さなかたまりが見えたのです。
「!?」
瞬間的に草刈機を動かす手を止めたマダムは、じっとそれを見つめます。
「えっ!・・・う・さ・ぎ・・・かな?」
その小さな灰緑色のかたまりはじっとして、少しも動きません。
「ええっ? 本当にウサギ? わあ、ちっちゃいなあ・・・」
危ない所でした。もう少しで切り刻む所でした。マダムは機械のエンジンを止め草刈機を下ろすと、その場にしゃがみこみます。
「あなた、こんな所で、どうしたの? どうしてこんなところにいるの?」
・・・・・・・
「先生、と、いうわけで、今日、草刈中にこのウサギを見つけたんです。あのまま放置してもすぐ猫やカラスにやられそうに思いましたから、連れて来ました。 健康状態を診てください。」
そう言って、夕暮れ時、マダムが診察室に連れて来たのです。
それは片手の上に載るくらいの、小さな命でした。生まれて二日くらいでしょうか。おなかにへその緒がついていた跡がまだ残っています。体重はわずか156g。
生れたばかりのウサギほど可愛いものはありません。ふっくらして、柔らかくて、無力で。それは飼いウサギが野生化して産んだもののように見えましたが、さて由来はどうなのでしょうか。
その日は哺乳用のミルクと低血糖対策のシロップを処方しました。
「あなたは岩間の野やぎが子を産む時を知っているか。
雌鹿が子を産むのを見守ったことがあるか。」
ヨブ記39章1,2節
小さな命は、人の心を限りなく豊かにしてくれます。
八月も下旬のある日の事です。マダムFは南区の、ある大きな運動公園の草刈に取り掛かったのでした。
「ブルンブルン、ブルルル、ブイーン、ブイーーーン」
草刈機が唸り始めます。真夏の陽射しを存分に浴びて、広い公園のあちこちでは雑草が伸び放題でした。
「さあ、どこから取り掛かろうかしら・・・、じゃあ、私はグランドの方から行くね。」
いつもの通り手分けして、仕事を始めます。
「ブイーーーン、ブイーーーン」
エンジン音は快調です。
「チュルチュル、チュイーン、チュルチュルバリバリ・・・」
広場をうっそうとした草薮にしていた夏草たちは、銀色に光る回転刃によっておもしろいように刈り取られてゆき、あとには見る見るゴルフ場の芝草のような気持ちの良い広場が現われます。
小さな虫たちが慌てて飛び出し、
プーンと刈られた青草の爽やかな匂いが、公園に広がります。
「ガチッ、バキッ!」
「おっと、危ない、危ない!」
時々、捨てられた空き缶や瓶が草むらに転がっているので、うっかり機械がそれに触れると大きな音をたてて弾き飛ばしたり、あるいは草刈機の折れた刃先が飛んで行ったりして大変危険です。
首に巻いたタオルで汗を拭き拭きマダムは、草刈を続けました。途中、何度も水分を補給して休憩しながら、入道雲を見上げます。
さて、仕事を始めてから2,3時間たった頃でしょうか、
それは一瞬のことでした。
マダムが右から左に草を払いながらずんずん刈り込んでいた時、その金属の回転刃が切り開いた草むらのすれすれの所に、草と同じような色をした小さなかたまりが見えたのです。
「!?」
瞬間的に草刈機を動かす手を止めたマダムは、じっとそれを見つめます。
「えっ!・・・う・さ・ぎ・・・かな?」
その小さな灰緑色のかたまりはじっとして、少しも動きません。
「ええっ? 本当にウサギ? わあ、ちっちゃいなあ・・・」
危ない所でした。もう少しで切り刻む所でした。マダムは機械のエンジンを止め草刈機を下ろすと、その場にしゃがみこみます。
「あなた、こんな所で、どうしたの? どうしてこんなところにいるの?」
・・・・・・・
「先生、と、いうわけで、今日、草刈中にこのウサギを見つけたんです。あのまま放置してもすぐ猫やカラスにやられそうに思いましたから、連れて来ました。 健康状態を診てください。」
そう言って、夕暮れ時、マダムが診察室に連れて来たのです。
それは片手の上に載るくらいの、小さな命でした。生まれて二日くらいでしょうか。おなかにへその緒がついていた跡がまだ残っています。体重はわずか156g。
生れたばかりのウサギほど可愛いものはありません。ふっくらして、柔らかくて、無力で。それは飼いウサギが野生化して産んだもののように見えましたが、さて由来はどうなのでしょうか。
その日は哺乳用のミルクと低血糖対策のシロップを処方しました。
「あなたは岩間の野やぎが子を産む時を知っているか。
雌鹿が子を産むのを見守ったことがあるか。」
ヨブ記39章1,2節
小さな命は、人の心を限りなく豊かにしてくれます。
2011-09-06 15:00
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