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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

バッタ

「ランランラン・・・、あれ、こんな所に虫がいる!」

それは台風の過ぎ去った翌日、久し振りに青空がのぞいたある日の昼下がりでした。
カメ子がモップを取り出して、診察室から待合室にかけて掃除を始めました。

鼻歌を歌いながら彼女が四角い部屋を丸く掃除していると、白いソファの前の床に、無言で構えている小さな生き物がいたのです。

それは流線型のとてもほっそりした、ちっこいちっこい緑色のバッタでした。

「あらあらバッタさん、あなた、いったいどこから入って来たの?」

カメ子はモップの手を止めて、バッタを覗き込みます。

「あなた、こんな所にいると、踏み潰されるよ。」

「・・・・・・」

「悪いけど、私は虫が苦手なのよ・・・」

「・・・・・・」

「申し訳ないけど、出て行ってくれない?」

「・・・・・・」

「うーん、どうしよう・・・、そうだわ!」

カメ子はお菓子を入れていた箱を持ってくると、バッタの前に置いてその中に追い込もうとします。

「えーと、バッタさん、あなたどっちが前で、どっちが後ろなの?両方ともおんなじに尖ってて、わかんないわね。」

「・・・・・・」

「しっし!・・・しっし!・・・ほら!・・・」

のそのそと、バッタは歩いて、箱に入りました。

こうしてカメ子はなんとかバッタを追い込むと、箱を持ってすぐに小走りで外に出て、ピョイとバッタを放したのです。

「バイバイ! もっと良い場所見つけなさいね。」

青い空と秋の風の中に、バッタは帰って行きました。

昼休みで誰もいない静かな動物病院の、カメ子とバッタの物語でした。
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