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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

西新小町騒動

まだ暑さが残る初秋の頃、夜に行った猫の避妊手術が終わり、片付けをしていた時でした。
マル子が話し始めます。

「フフフ・・・、うちの母さんはですね、昔、西新のお店で勤めていたんですよ。」

「へえ、それは初耳だね、勤めてたなんて、何のお店だったの?」

「金物屋です。今はもうないんですけど。岩田屋ができた時に、なくなりました。」

「ははあ・・・、あの辺りにねえ、今はプラリバになったけど、そうかあの辺に個人商店が立ち並んでいる時代があったんだね・・・。」

「それでですね、近所に和菓子屋さんがあって、そこの若旦那さんとおつき合いしたこともあったらしいんです。」

マル子は可笑しそうにニコニコ話している。

「ふーん、なるほどねえ、若い、良い時代だね・・・。」

わたしの頭の中では、和菓子屋と若旦那ということで、勝手に江戸時代の町人姿の二人が浮かび上がってしまった。

「ところがですね、その近所に材木屋さんが引っ越してきたんですよ。何かの理由で移ってきたんだと言ってました。そこの息子がわたしの父だったんです。」

「ほほう・・・、なんと、そこに忽然と現われた青年が君のお父さんか! 事実は摩訶不思議! うーむ、これは事態が急変しそうだね。」

「フフフ・・・、それで、なぜか知りませんが、父と付き合うようになったようです。」

「材木屋だったら、お父さんは、もしかしたらお金持ちのぼんぼんだったのかなあ?」

「フフ・・・、昔の材木屋は、少しは羽振りが良かったそうですからね、もしかしたらそうなのかもしれませんが。・・・でも、父のところはその後潰れたらしいですけど・・・。」

「材木屋は潰れたか・・・、うーん、わかったぞ!見えてきた。」

わたしはポンと手を打つと、マル子に説明を始める。

 「君の若き頃のお母さんに惚れた青年、つまり君の父親は、なんとか和菓子屋の若旦那から、引き離さなければならない。

それで、消防士になったんだ。消防士になって二人の恋の炎を消し、そしてついに君のお母さんを射止めたんだ。

ところがその後もあちこちの火事を消してまわったから、火事が減って家が建たなくなり、材木屋は潰れた。つまりそういう流れだ。

国を滅ぼすほどの美しい女性を傾国の美女というけれど、なるほど、君のお母さんもそれに近かったんだろうねえ。
 
 それにしても、もし君のお母さんが和菓子屋に嫁いでいたら、今ごろ君は生まれてなかったねえ。」

「フフフ・・・、そうですね。・・・あるいは、和菓子屋の娘になっていたかもですね。」

まあ、そんなたわいもない話をしているうちに後片付けは終了、手術室の電気を消灯して、一日が終わったのであります。

以上が有名な昭和中期の西新小町騒動のてん末です。

え? そんな事件、聞いたことないって?

そ、そうですかねえ・・・・
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