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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

・・・先日の迷い込み犬、マックについて

マックは私が日曜日犬舎に行くと、ウオンウオン吠えました。

「おい、そんなに吠えるなよ、周りが迷惑だろ!」

「ウオン、ウオン、ウオン」

「静かにしなさい。仕事ができないじゃないか。」

「ウオン、ウオン、ウオン、ガルルルル・・・・」

ずっと吠えっぱなしです。耳が悪くなりそうです。幸い窓は三重ガラスを入れているので外に音は漏れにくいのですが、犬舎の中は騒々しいこと・・・。

平日の仕事中に犬舎に入ると何も言わないのですが、なぜか日曜日は吠え続けます。休日は他のスタッフがいないことを知っていて、警戒心が高まるのでしょうか。

「はい、はい、わかったから、掃除をさせて・・・・・・・」

「ガルルル・・・・ウオンウオンウオン・・・・」

「知らないぞ、掃除してあげないぞ」

フードは喜んで食べるのですが、食べ終わるとまた吠え始めます。

そういうわけで、マックからは小さな忍耐の訓練を十分してもらいました。

ところが5年ほどたってこの秋、こんな犬でももらってくれる、里親になりますという奇特なマダムが現われたのです。

「えっ!? この子は吠えますよ。咬みつきますよ!」

「いいの、いいの、わたしの気持ちが通じるから大丈夫よ。」

「いや、本当に気に入らないことがあると咬むんですよ!」

「いいですから、くださいな、マックを。」

というわけで、ついにマックは引き取り手が現われたのでした。

「えっ!? 本当ですか? マックがもらわれていくんですか?」

スタッフたちもみんなびっくりです。
まさか、マックにそんな日が来ようとは。

「先生、マックはマダムのうちで、一緒に布団で寝てるらしいですよ。なついて仲良くしているそうです。」

「ええっ! マックと一緒に布団に? そりゃあマックは待遇が良くなって、幸せな生活を始めたなあ、あいつはラッキーだなあ。」

「私もそう思います。」

マル子が嬉しそうにそう言います。

「まさか、私より先に、マックが幸せをつかむなんて思いもしませんでした。マックに先を越されてしまうなんて、ウフフフフ・・・」

本当に人生は未知数です。
明日、何が待っているか、人にはわかりません。

マック、君がいなくなって、犬舎が寂しくなったよ。
いつも君は、奥から二番目に居たんだけど

君が暮らしたケージはきれいに掃除されて、今は空っぽだ。

がらんとしてしまった。

でも、帰ってこなくていいからね、マック、幸せにね!
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忍耐の恩師

それは、5年ほど前の事です。
ある夜、出先から私が帰宅すると、一匹のミニチュアダックスフンドが我家の玄関の暗がりに寝転んでいました。

「あれ、おまえ、なんでこんな所にいるの?変った奴だなあ・・・。

どこから来たの?ここでは何もあげられないよ、早く帰んなさい。」

犬はそれほどやつれていないので、自主散歩の犬の可能性もあると思いました。しかし、彼はじっと上目遣いに私を見やるだけでした。

バタンと玄関を閉めその翌朝、もう居ないだろうと思い覗くと、彼はまだそこに寝ていました。

「うーむ、困ったなあ・・・、ねえ、変な犬がいるから犬舎に保護しておいて。」

私はスタッフにそう頼み、役所や警察に保護届けを出しました。

「先生、あの犬は数日前、近くの空き家に繋がれて捨てられていた犬に似てますよ。二匹放置されていて、近所の人が食べる物やって、紐をほどいてあげたみたいです。」

「むむ、そうかい。捨て犬なのかな・・・。その、もう一匹は、どうしたんだろう?・・・」

連れ合いは行方不明です。
しばらく様子を見ることにしましたが、捜し犬の届けは一切ないようで、有力な情報は入りませんでした。

「ううむ、どうしよう・・困ったなあ・・。」

しかし困るのは私ばかりで、ダックスフント君はそれから当然のような顔をして、犬舎での生活を享受し始めました。

ステンレスの清潔な犬舎の二階住まい、若き乙女のスタッフが一日二回掃除し、朝晩の二食付、散歩も出してもらいます。

茶色のロングコートで、中年、オスです。

名前をつけると長居をされそうなので、つけたくなかったのですが、名前がないのも都合が悪いので、とりあえずマックと、仮に命名しました。

ところがです。
このマックは、私が散歩に出してやろうとすると、暴れて咬みついたのです。

「こいつめ、なんてことするんだ。自分の立場をわきまえろよ、おとなしくしろ!」

私が叱ったのが余計いけなかったようです。ケージの中に居る時は、それから私に対しさらに威嚇するようになります。

外に出たら、私に擦り寄ってくるのですが、ケージの中にいるときは、体を触らせません。

「困ったなあ、こんな犬をいつまでも追いとくわけにはいかないがなあ・・・・」

私は苦りきった顔でいつもマックを見ていましたが、そんな私の思いが伝わるのでしょうか?彼は轟然とした顔で、私を見返します。

それから5年でした。
世話をしようとすると咬みつくマックを、延々と養い続けました。

(いい加減に、慣れてくれよ・・・)と思いましたが、一度決ったパターンが出来たら、それに則っていつも同じ反応でした。

食べ物をやれば手の平からでも食べるのですが、触られるのは拒むのです。

私はこのマックから、忍耐を学ばせてもらいました。
決して好意を示してくれない相手の世話をし続ける。
水を替えようとしても、咬みつこうとする居候マックの世話をし続けることによって、短気な私でしたが少しだけ、忍耐を訓練してもらうことができました。

理屈の通じない相手が居る。
説明しても、理屈が通じない相手が居る。

そんな相手とも、折り合いをつけて一緒に生きる。

たかが犬との出来事ですが、この5年間は私のような者にとって、ある種の忍耐の良い訓練となりました。
そういう意味でマックは、私の忍耐の恩師です。

ところで、それから5年たって、マックに転機が訪れるのですが、それはまた次の機会に・・・。

    (来週は、本欄はお休みを頂きます)
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救急車

「うちの父が、今年は定年の予定なんですよ・・・。」

お茶の時間でした。マル子が父親へのプレゼントを考えているようです。

「お父さんは、救急隊員だったね。」

「エヘヘ、私、救急車に乗ったことがあるんですよ。」

カメ子が口をはさんだ。

「随分前の話ですけど、実家に帰っていた時なんですけどね、私は寝ていたんです。ところが明け方近くになって、お腹が猛烈に痛くなり、もう、声も出ないくらい痛くなって、脂汗が滲んできたんです。

これは尋常じゃないと思い、救急車を呼んでもらいました。
ところが、救急車に乗ってから、痛みが引いていったんです。

病院に着いて、歩けるくらいになったんですが、今更もう大丈夫ですとは言えず、車椅子で運ばれて診察を受け、とりあえず確認してもらって、家族に迎えに来てもらいました。

え?尿路結石ですか? 言われたことないです。ひょっとしたら捻転でも起こしかけたか?とか、言われましたが・・・。」

「そうか、その若さで、救急車に乗ったことがあるのか・・・」

救急車なんて、気が引けてとても呼べないと思っている私には、カメ子の体験談は意外な気がした。

「うちも妹が激しい腹痛を起こしたことがあるんですが、なかなか救急車は呼べないんです。

もし父が職場で、『この前、おまえんとこのお嬢さんを担送したぞ!』なんて言われたら、なんとなく恥ずかしいだろうから。

どんなに痛くても、家族で連れて行くようにしています。」

と、マル子。

うーむ、救急隊員の家族は、救急車を呼びにくいとは。

どんな世界も、気遣いが交錯しているんだな。
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ネジ緩んでますよ!

「今日、裏の団地の酒屋さんにパトカーが停まってましたよ!」

お茶の時間にタマエが報告する。

「へーえ、自動販売機荒らしか何か、あったのかしら?」

「そういえば、昨日は関東のほうでお店に車を突っ込んで商品を盗んでいく荒っぽい強盗があってたね。」

するとカメ子が目を輝かせてこう言った。

「ところで先生、テレビで地域の事件情報があってるのを知ってますか? Dチャンネルボタンで見られるんですけど。それをこの前見てたら、うちのすぐ近くでバイクの二人乗り犯による引ったくり事件があってて、びくりしました。」

「うーん、追い抜きざまの引ったくりは多いから、警戒しないといけないね。」

「そうですね。駐輪場での事件も多いから、わたしは自転車の乗り降りの時も注意しているんですよ。周りをきょろきょろして、怪しい人はいないかを確認してから、かがんで自転車に施錠するんです。

ところがですね、今朝もうちの自転車置き場で自転車のU字錠をはずしてサドルにかけて出勤してたんです。いえ、かけたつもりだったんですが、しばらく走ったらカランカランって音がして、振り返ったらU字錠が落ちてたんです。

(あれ、おかしいなあ? U字のピンは、はずれてないのに・・・、なぜ落ちるの?)

落ちるはずがないのに落ちて、変に思ったんです。

ところがその時一緒に、自分がかぶってたサンバイザーの帽子がネジのところからはずれてワクとひさしがバラバラに弾けて私の頭から落ちたんです。

(あらあらあら・・・)

と、あわててU字錠を拾い、散らばったサンバイザーの部品を拾い集めたんです。そんなことしてたら小学校の鐘がキンコン鳴り出したので

(うわー、遅刻する!)

と、急いで自転車をこいで来ました。エヘヘヘ・・・」

緩んでいるのは、カメ子の頭の中のネジだけかと思いましたが、どうやらサンバイザーのネジも緩んでいたようです。
そういうわけで今朝のカメ子は出勤中、想定外の出来事に襲われたようです。

ハプニングがあったなんて聞くまでわかりませんでしたが、私は改めて思いました。

人はそれぞれ自分の人生を、他人にはわからない色々な思いをしながら、生きているんですね。
それがたった出勤途中の10分間であれ。

さて、仕事が終わり夕方、壊れたサンバイザーの部品を組み立てながら手元を一心に見つめ、帰り仕度をするカメ子は、しかし朗らかです。

「これですね、年中閉店セールやってるあそこの店で買ったんですよ、え?この帽子ですか?400円でした。ヘヘヘ・・・」

カメ子頑張れ!!
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帰宅

「あっ! しまった! 首輪が抜けた! おい、まてっ! こら、ミルキー!!」

季節外れの暖かさが漂う秋の夕暮れです。ムッシュI夫妻が中型犬のミルキーちゃんを外に出して、散歩中のことでした。何かに驚いたのか、急にイヤイヤをして後ずさりしたミルキーの首輪がそのままスポッと抜けてしまいます。

(あちゃ、しまった)と思うが、一瞬遅く、たちまちミルキーは脱兎のごとく逃げ出しました。

「まてーー、ミルキーー、待ってくれーーー!」

悲しいかな二本足の人間は足が遅いのです。四足の獣が走り出すと、自転車とスポーツカーのような開きがあります。あっと言う間に通りの向こう、角の先に消えて行きました。

体はこっちが大きいのに、どうしてこんなに人は遅いのか?

私は思うのですが、試しに生まれてきた赤ちゃんを一人、小さな時からいつも四足で走る練習をさせたら、もしかしたらすごく早い走行が出来るようになって、オリンピックにも出場するかもしれないと思うのですが・・・。

四足で暮らすのは人として失うものが多すぎますし、まあ、無茶な話でしょう。

それに「二本足だから遅いのだ」と決めつけたら、ダチョウに笑われるかもしれませんので・・・。

とにかくミルキーはあっと言う間に、街角から消えてしまったのです。

ムッシュは困りました。というのは、この犬は、動物の愛護保護団体から譲り受けて里親として飼うようになった犬だからです。

五ヵ月ほど前の事でした。年齢の分からない、いつもオドオドしている怖がり屋の犬を、ご夫妻が引き取ったのです。

しかしミルキーちゃんが最初に保護されたのは、北九州の山の中でした。イノシシ猟の罠にかかって、身動きできなくなり、衰弱したところを危うく助け出されたのです。

しかし、救出されてからも人を怖れてなかなかなつきません。保護団体の方々が七ヶ月間預かり、親身な世話をし、なんとか里親に出せるまで落ち着かせてから、ムッシュの家に引き取られたのでした。

それから5ヶ月です。ムッシュ夫妻は毎日よく可愛がり、心臓の治療を受けさせ、食事を与え、散歩に連れて行き、一生懸命世話をしてきたのです。

それでもやっぱり怖がりの癖はなかなか直らず、いつもビクビクしているのでした。

「しまったー! どうしよう!? どこに行ったかなあ?」

ご夫妻は必死で追いかけ、近隣を探し回り、あちこち覗きますが、二度と視界に現われてくれることはありませんでした。

「うっかりしたね。首輪がゆるかったかなあ?」

「いつもなら、大丈夫だったのにね。」

「もう、見つからないかなあ・・・」

「警察と管理センターに電話しないとね。」

そんなことを話しながら家に帰った時です。

なんとミルキーちゃんは、ちゃんと先に家に帰って待っていました。

「おい、お前、帰ってたのか!? ここがお前、自分の家だと、思ってくれたのか? 

そうか、帰ってくれたのか! 良かった!良かった!」

「本当、ミルキーちゃん、ここに戻ろうと思ってくれて、ありがとう。ありがとうね、ミルキー・・・」

ご夫妻は、戻っていた犬を抱いて大喜びでした。

皆さん、良かったですね。いつもビクビクしている様子でしたが、それでも
(ここが、あたいのおうち)
と、いつの間にか、思ってくれるように、なってたんですね。

良かったなあ。

ところで、もし家出して、しばらく家に帰っていないなあという若者がこれを読んでくれていたら、

たまには家に帰ってみたら、どうですか?

「犬と一緒にするない!」・・・と、怒らないで下さい。

犬と一緒になんか、しませんよ。

もっとはるかにはるかに、泣いて喜んで、抱きしめてもらえますよ!
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ひとひねり

「あれ、先生、酸素が下がってきました。」

猫の避妊手術の時です。そばで血圧を測定していたマル子が言いました。
酸素流量計を見ると、確かにじわりと少し下がっています。

「おっ、ホントだ。ボンベを切り替えて来てくれ。」

「はいっ。」

マル子がボンベのあるところへ駈けて行く。すぐに流量計の値は元の位置にもどります。

「戻りましたか?」

「おう、大丈夫。あとで忘れないよう酸素を注文しておこう。」

当然のことながら、動物病院では酸素は必需品です。予備のボンベがあるので慌てることはありませんが、常に補充が肝要です。

・・・・・・・

「こんにちわ、ボンベの交換に来ました。」

夕方の事、さっそく酸素会社のトラックが入ってきます。そして青年ムッシュが手早くボンベ交換をしてくれました。ところが、

「あれえ? これ、まだ、だいぶ酸素残ってますよ!?」

ムッシュが配管からはずしたボンベを調べて、そう言われます。

「え? 残ってる? おかしいなあ、たしかに流量計は下がったんだけど。」

「いえ、でもかなり残ってますよ、念のため酸素内圧を測ってみましたから、間違いありません。」

「うーん、・・・・そうか、酸素はたっぷり残ってるのに、流量計だけ、下がってきたか・・・」

理由は最初よくわかりませんでしたが、結局、流量計の値が下がってきたのは、最初のバルブの開き方が不十分で、何かの原因で配管内圧が下がったのではないかということでした。
配管の途中に、バルブや栓は4か所ほどありますが、そのうちいつも操作するのは一か所だけです。

配管漏れなどがないのも確認し、次回から使用時にはもっと十分バルブを回して、様子を見る事になりました。

(なんだ、ボンベを開くぐらい、)と思っても、実際には一、ニ回ひねる回数を減らすだけで、状況が変ることがあります。

ちょっとしたことで状況が変るというのは、どんな世界でもありますが、酸素も例外ではなかったとは・・・。

「あなた、こんな企画じゃだめよ。もうひとひねりしなさい。」

なんて社会で言われるようですが、なるほど、「もうひとひねり」が大事なんですね。
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