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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

初月給40円

「電話をしていたのですが、猫の餌をもらえますか?」

ムッシュKが猫の療法食をとりにおいでになりました。ムッシュの猫は尿石症の持病があり、治療食を続けています。

「最近はすぐ忘れるもんで、こんな袋にお金も領収も入れて持ち歩いとるんです。ハハハ・・・」

ムッシュはカウンターで布製の巾着袋を広げながら笑う。

「最近は物忘れがひどいですからな。え?歳ですか?数えで90です。満でなら89歳ですよ。

運転免許更新では、脳のテストもせんとならんのです。いくつか映像を見せられて、後でそれを覚えとるか聞かれるんですが、いやあ、それが思い出せんとですなあ、アッハハハ。」

「そうですか、高齢者は記憶力のテストがあるんですか?」

「はい、もう来年の免許更新は受けずに返上しようと思うてますが、自転車もまだ乗ってますから。」

長い人生の歴史を秘めているのだろうなあと思いつつ、お話しを聞いたら、大正11年のお生れだそうで、当時の福岡中学から佐賀高校入り、さらに九州大学の工学部に進んだとかで、その頃としては大変優秀な人たちだけが進むエリートコースだったでしょう。

大学を卒業した戦争末期は佐世保で海軍に勤務し、エンジンの熱力学の研究をしたそうです。水力タービンやら蒸気タービンやら、そんなことも言われました。

「海軍の月給は40円、陸軍は30円でした。海軍の方が高かったんです。ハハハ・・・うーん、当時の大学卒の就職した人たちの平均給与も40円くらいでしたかなあ・・・。」

「男6人、女4人の10人兄弟の長男ですが、まだ全員健在です。」

それも珍しい話です。本当に長寿の家系であり、なお且つ幸運に恵まれないとあの戦争を10人無事には潜り抜けられなかったはずだと思いました。

「しかし友人や職場の関係者はもう、みんないなくなりました。昔の上司も、同僚もだれもいなくなってしまいました・・・。」

カウンターで笑いながらそうおっしゃるが、さすがに寂しいだろうと共感したのです。

人は皆、歳をとります。
長生きは幸せなことですが、孤独を感じることにもなるでしょう。

「年賀状が昔は150枚やり取りしていましたが、今は50枚です。」

幾つになっても、人は生きる限り、確かな希望が必要です。たとえいつかこの命が終わると分かっていても、最後の瞬間まで、ユーモアを抱えつつ勇敢に生きるためには、希望が必要です。

人生とは、この希望を見つけるための、旅なのでしょうか。

また間もなく、今年も年が暮れます。
一年間、この欄におつき合いくださったこと、ありがとうございました。
皆様に、神様の恵みがありますように。
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冬の夜のゴミ袋

病院猫の畏咲です。
皆さん、寒くなりましたね。

クリスマスも過ぎた十二月のある寒い夜のことです。院長が夜の見回りを始めた頃には、動物病院の待合室の時計はすでに一時をまわっていました。

院長は猫舎を見回り犬舎を見回った後、待合室から玄関ドアの向こう、駐車場の暗がりに目をやると、道路沿いに出されていた燃えるゴミの袋がいびつに傾いているのに気がついたようです。

( おや? )

そしてその斜めの袋が、並置している車止めのシルエットと重なるように闇をつくり、そこに黒い陰がうずくまっているように見えたのです。

今にも雪の降りそうな重い空で、月明かりもありません。かろうじて近所のマンションの窓から漏れる光と、電柱の外灯が遠くから光を投げかけているだけです。

院長はしばらく暗い待合室に立ち止まり、陰のほうをじっと見つめました。

何も気配はありません。

(そんなはずはないだろう・・・)

疑り深そうに院長は、さらにじっと陰を見つめていると、闇に慣れてきたのか陰の部分に一匹の猫が伏せて、じっとこちらを見ていることがわかりました。

(しまった、野良猫だな。ゴミ袋を破ってる。食べ物の匂いがしたんだろうなあ、寒空にお腹が空いてるんだろうか?)

どうやら袋の一部が破られかけ、傾いたようです。

(ゴミ回収業者が来た時、ゴミが散乱してるかもしれない)

院長は夜中に働いている方々に申し訳ないことになってもいけないと考えたはずです。

かといって、彼も動物病院の獣医です。
雪が吹雪いてきそうな木枯らしの夜、ゴミをあさって食いつなごうとしている野良猫を、むげに追いやれるはずもありません。

しばらくじっと二人の目と目が向かい合っていました。

名うての剣豪同士なら、じっと睨み合って微動だにせず相手の動きと心を読む緊迫の場面ですが、ここは野良猫とへっぽこ獣医です。
勝敗は明らかです。毎日命がけで修羅場を潜り抜けている猫の勝ちです。

そう、先に動いたのは院長でした。
彼はかがんで自動ドアの鍵をはずしますが、猫は動きません。静かにガラスドアをするすると開けますが、まだ野良猫は動かず、相手の動きを観察しています。

院長がドアをまたいで一歩踏み出し、ゴミ袋に近寄った途端、黒い陰は間合いを見極めたかのようにササッと道路を横切り、アパートの茂みに入っていきました。

院長はまるで顔を避けて離れて行く友人を追うような目で、その逃げていく野良猫の陰を目で追っていました。

(おい、待てよ。・・・いや、待てとは言わないけど、誤解しないでくれ!)

院長はしばらくその茂みを見つめていました。

遠くでゴミ回収車の作業する音が聞こえてきました。
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一人ぼっちのクリスマス

「あ、待って! ねえ、お母さん、置いてかないで!」

「チーコごめんなさい、もう無理なの。本当にごめんね。」

一頭の可愛いチワワが病院に持ち込まれました。白い毛の女の子。小さな体ですが6歳です。もう子犬ではありません。飼主のマダムが体を壊し、入院が長くなったのです。

これ以上飼育を知人にお願いし続けるのも、もう無理でした。

(どうしよう、手放しきれない・・・)

一か月悩みましたが、やっぱり飼育は無理だと観念しました。それで病院に里親探しを依頼されたのです。

「お母さんもあなたを置いていきたくないけど、どうしようもなくなったの。」

「・・・・お母さん・・・・」


それ以来、チーコは動物病院の里親探しのケージにおとなしく入って、待合室で皆さんに見てもらっています。

「え、どうしたんですか?このチワワ・・・まあ可哀想、飼えなくなったんだって。」

「ふーん、おー、よしよし・・・」

皆さんが、優しく声をかけてくれます。


「運命を受け入れる。
 くよくよしても、昔に戻れるわけではない。

 人を恨むんじゃない。
 みんな自分のことで精一杯生きているんだ。

 あなたはこれまで愛されてきたし、
 今もあなたを心配してくれてる人がいる。

 もしあなたが新しい境遇を受け入れるなら
 あなたの新しい歴史は、輝きを増す。」

そんな臭い説教をしなくても、チーコは元気です。
フードは好き嫌いするし、散歩でトイレをせずにケージで排泄してくれるし、最近は病院の番をするつもりか、入ってきた犬に吠えるようにもなりました。

「チーコ、もう少し静かにしてくれないかな。」

「わん、わんわん、」

左側から舌をいつもぺろっと出して、すまし顔です。

みんなが楽しそうにするクリスマスの聖夜に、一人ケージに入っていても、チーコは自分に負けていません。
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サファリランドでの拾いもの

「ランランラン・・・、今日は楽しいドライブだ〜♪」

それは20年ほど前のことです。
マダムMファミリーが、久し振りの休みを利用して、大分のサファリランド(自然動物園)まで出かけたのです。
お空は晴れ渡り、気持ちの良い風が窓から入ります。

「お父さん、まだかなあ?」

「うん、まだまだだ。ここは日田あたりだから、まだ半分だよ。」

「うーん、早く、着かないかなあ!」

「ねえ、お母さん、お腹空いたわ。」

「あら、もうお腹すいたの?それじゃあ、ハイレモン食べる?」

「わーい!」

子供たちもウキウキです。

さて、ようやく安心院に着き、お父さんが入場券を買い、いよいよ園内入場です。子供たちは間近でライオンを見れると大興奮。

グルグルグル・・・ガオー!

「うおー!、いたいた! すごい!」

「わー、こっちにくるわ! こわい!キャー!」

・・・・・

「あっ、こっちにはサイがいる! でっかいなあ!」

「あんなのに突っかかれたら、こんな車ひっくり返るぞ!」

・・・・・・・

ドキドキしながら、ゆっくり園内を走り、最後に二重のゲートをくぐってサファリランドの冒険は終わりました。

駐車場に車を止めて、子供たちは売店に走ります。と、その時、お店の前でチョロチョロしている子猫を見つけました。やせこけて、顔も汚れています。

「あっ、こんなところに子猫が居る!」

「あっ、本当!」

子猫は子供たちの顔を見上げて、「ミャー、ミャー」と、力ない鳴き声をあげました。

「お母さん、ほら、子猫が・・・」

「あらあら、本当ね、・・・あの、この子猫はどうしているんですか?」

マダムは売店のおばさんに、聞きました。

「はい、二つで千八百円になります。・・・ああ、その子だろ、最近ウロウロしてんのよ。きっと捨てられたんじゃないかね、この辺りはよく捨てられるのよ。良かったら、連れて行ってよ。」

「お父さん、捨てられてるんだって。」

「ふーん、かわいそうだなあ」

「ねえ、連れて帰ろうよ。」

「ねえねえ、家で飼おうよ・・・」

みんながお父さんの顔をじっと見ます。お父さんが何と言うかで、子猫の運命は決るからです。

「うーん、・・・・・・」

まだみんな黙って、お父さんの顔を見つめています。お父さんは口をすぼめたり、眉を寄せたりして、考え込みます。

「うーん、・・・、仕方ないな、じゃあ、連れて帰ろうか!」

「わーい、わーい!」

「やったー、一緒に車に乗せるねー!」

というわけで、ミケちゃんはマダムの家に来たのが20年前でした。三毛猫だからミケちゃん。それ以来、ミケちゃんは、子供たちと一緒に育ちました。

いつの間にか子供たちも大きくなり、家を出て・・・
それでもミケは家の中心にいて、折りあるごとにみんなに可愛がられました。

しかし20歳を過ぎる頃から肝臓と腎臓を患うようになり、一年間の治療を経て、最後の体重は1.1kgになってもまだよろよろ歩いてトイレに行こうとしていました。しかし、ついに力尽き、この12月に亡くなりました。

大分の安心院出身?のミケちゃんは、こうして、福岡で幸せな生涯を送ったと言う物語です。
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育ちが知れる

お茶の時間です。
スタッフが飼主さんから頂いたお菓子の箱を開きました。ショートケーキが入っていました。

「わあ、すごい。どれにする?」

「うーん、・・・、えーとね、・・・」

スタッフ達はここぞ肝心とばかりに集中してケーキを見つめます。

「そっちは、なあに?」

「これはね、えーと、アップルゼリーかな??」

根が卑しいのだろう。人の食べてる物が気になるらしく、互いに味を聞いている。

ふと、思い出したようにタマエが話し始める。

「あっ、私ですね、ある日家に帰ったらおやつにゼリーがあったんですよ。それもローヤルゼリー入りのゼリーなんです。

一つ食べたらすごく美味しかったんでもう一個食べて、それでも欲しくなって『美味しい、美味しい、』と言いながら、また一個食べたんですよ。

そしたらお母さんが二階から降りてきて、

『あんた、なん食べよるん! それ、カブトムシの餌よ!』

って言われました。ヘヘヘ、カブトムシの餌って、すごく美味しいですよ。」

すぐにマル子が

「私もカメの餌ドーナッツを食べたことがあるけど、あれは不思議な味やったね。
まずくはないけど、美味しくもなかった。」

再び、タマエも

「あー、わたしもある! あれ、カメの餌ドーナッツ、あれはまあまあいけますよね。」

それまで黙って聞いていたカメ子は、急いで自分の体験談を思い巡らしたんだろう、ここで口を挟む。

「私もですね、子供の頃家に帰ったら
 『あっ! コヒーゼリーがある!』
と思って急いでパクッと食べたんです。
そしたら、『オエッ!』ときて吐いちゃいました。

それは料理用にお母さんがとっていたニコゴリでした。
ニコゴリってわかりますか? 魚を炊いた時に、表面に浮かんできて冷えると固まるゼリーのようなものですけど。」

まったく口卑しい連中です。
いったい、まともな物を口にせず育ったんでしょうかね。

私はそんな失敗は決してしません。
私が覚えているのは、子供の頃、家に来た大工さんが鉋(かんな)がけをしているのをじっと見ていて、

(これはきっとかつお節だ。こんなにかつお節がたくさん出て来る!)

と思っていて、夕方、大工さんが帰った後でこっそり作業場に行き、鉋屑を口に入れてけど、

「うへっ! ぺっ、ぺっ。かつお節じゃないや!」

と、知った思い出くらいです。

どうですか、マル子たちより、ましでしょ!

え? もっと悪い・・・ですか?
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ホノルル研修その4

さてホノルル動物園での二日目には、中型の高齢トカゲとカエルが食欲不振と足の疼痛のため検査するところを見学しました。

事前にはライオンに麻酔を施しての健康検査をすると聞いていたのですが、その前日ライオンに予定外の発情が見い出された為、交配を優先するため検査は延期になりました。
ライオンは今個体数を増やす為の努力が行われているそうです。その代わり、トカゲたちのレントゲン検査が午前中に実施されます。

大型動物も乗せられる広いテーブルに、小さな体が、なるべくべったりと張り付くようにセンサー上に無麻酔で寝かされ、ドクターが一人付き添い他の者達は、バタバタと物陰か室外に退いて、それを繰り返しながら撮影が続きます。

品種名は聞いたのですが、英語の為、残念ながら私の記憶に残りません。一つはまっ黒い落ち葉が張り付いたような扁平なカエルですが前肢跛行をしています。デジタルレントゲンで詳細に観察していましたが、原因不明でした。

中型トカゲの方は後肢の骨折が見つかります。彼らは安全なケージに展示されていてどうして骨折するか不思議ですが、人の見ていない時に活動的に動き回り、転落などがあっているのかも知れません。あるいは栄養上の問題があるかもしれません。
治療としては外科的処置は加えず、鎮痛剤リマダイルを投与しての安静療法となりました。

最後に滞在中一回だけみんなでワイキキビーチに泳ぎに出た時のこと。

実はマル子は泳げないことが発覚した。

「わあ、これは冷たい。結構水が冷たいぞ!!」

「本当だ! ウヘー冷たいです!」

膝まで水に浸かると、予想以上に冷たさを感じる。やはりハワイも秋である。
がんばって深みには入っていくと段々慣れるが、マル子がついて来ない。

「おーい、もう少し先まで行くよ!」

「だめです。私、泳げないから、これ以上は行きません。」

いくら呼んでも腰よりも深いところは、怖がって行こうとしない。情けない奴だ。まるで小学生のプールの時間がそのまま大人になったようだ。

一方、カメ子は

「わーい、ハワイの海だ! いつもテレビで映る海だ!」

と、せっかくの海を満喫している。カメ子は時々スポーツジムに行っているが、どうせ風呂に入っているだけかと思っていたが、ふむふむ、少しは泳いでいたようだ。一人で少し先まで行って、手を振っている。

我が管理人なる妻は、砂浜に座って、じっと遠くを見ている。

まもなく太陽も西に傾く頃、少しづつ空がオレンジ色に変っていく。
帽子を飛ばすほどの風の強いワイキキの浜辺には、たくさんの観光客の歓声が響いていた。
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ホノルル研修その3

加温して温めた状態で黄色い羽毛に包まれた冷凍ひよこを、コモドドラゴンの大き目の浅い食器に入れました。

「カンカンカン」

キーパーが音をたてて知らせると彼らには伝わるのでしょう。オリの奥の物陰に潜んでいたオオトカゲは、ニョキっと顔を出すとすぐに丸太を乗り越えて、体を左右に揺すりながら小走りで出てきます。

先端が二つに割れた舌をピラピラさせながら食器に近づきます。美味しい獲物かどうか、臭いをさぐっているのでしょうか。こっちを見ては茶褐色の首を左右にふらいふらりと揺らし、食器に顔を向けてはピラピラさせ、そのうちやおら決心したように食器に頭を突っ込むとガツガツとひよこを食べ始めました。

「わあ、こんなに激しい食べ方ができるのか!」

のそのそした動きしか見ることの少ない爬虫類でしたから、攻撃的な食べ方が新鮮でした。

生息個体数が少なくなったコモドドラゴンは、特にホノルル動物園では繁殖に努力しているようです。

「メスばかりの群れしか居ないところでは、なんとオスがいないままメスだけで有精卵を産むことが出来る珍しい生物だ」ということで、最近も科学誌にその報告が掲載されていたと、聞きました。

さて一晩寝ないで、機内で映画ばかり見ていたマル子とカメ子は、朝ホノルルに到着してそのまま動物園を見せていただいたので、昼下がりになりそろそろネジが切れてきたようです。

「お腹が空きました。」

カメ子がつぶやき始めます。一度言い始めると、カメ子はしつこく繰り返すのがわかっています。

「ちょっと何か食べないと、だって朝飛行機で食べたっきりで、お昼何も口にしてないから・・・」

妻がそう言うので、触れ合い動物コーナーの近くにある休憩所で腰掛けました。売店の前に立ち、各自メニュー看板を睨みながらウンウン唸りながら迷い、ハンバーガーやおにぎりや飲み物を注文し、どんな物が出されるかワクワクして待つのでした。
たいてい、たっぷりのフライドポテトが、付いて来ます。

強風が吹きつけ、時折霧雨がさらさらっと撫でるように通り過ぎます。
鳩や小鳥が寄ってきては、おこぼれを狙ってうろつきます。
動物園での平和なひと時です。
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ホノルル研修旅行その2

さて、天候の不安から予定外の飛行機に乗り換えたものですから、羽田から成田に急がなければならなくなりました。みんな慌てて荷物を受け取るとリムジンバス乗り場に急ぎます。既にバスは来ていました。

「今、乗車券を買っているからちょっと待ってください。」

そんなこと頼んでも、東京は冷たいのです。目の前で無情にもバスは発車、我々は次のバスまで30分待たねばなりませんでした。

さて次のバスを待ち、横殴りの風が強い中、なんとか成田に到着です。改めて手荷物検査をしてもらい飛行機に乗り込んだのですが、待つこと20分、アテンダントさんから放送がありました。

「機体不良の為、懸命な整備を行っていましたが、この後もさらにどのくらい時間がかかるか分からない見込みです。申し訳ありませんが、別の機体に乗り換えていただかねばなりません。皆様のご理解とご協力をお願いします。」

(仕方ないなあ・・・)

自分の命がかかっているので、皆さん誰も文句を言う人はいません。なんだかんだとしゃべりながらも、従順にアテンダントさんの言葉に従います。

(今度は大丈夫かな?)

はい、乗り換えた機体に差し障りはなかったようで、間もなくスタッフ達は雲の上に浮かび、星空の太平洋を東に向かって進んだのです。
雨女にたたられ、出発から小さなトラブル続きでしたが、一行は7時間半後無事ホノルル国際空港に到着、休む暇もなく南国の太陽に焼かれながらすぐホノルル動物園に向かったのです。

動物園は今年の二月ごろ正門を移動したそうで、新しいゲートが私たちを迎えてくれました。

すでにアポイントをとっており、連絡するとすぐ動物園のドクターが私たちを迎えにきてくれました。

私の怪しい英語では通訳もままならぬと心配したのですが、どうしてどうしてマル子もカメ子も、妻も、わかったような、わからぬようなドクターの話を聞いても物怖じせず堂々とうなずきながら、時々感嘆したり質問さえするのです。

(うーむ、これはなかなか・・・・)

通訳をどうしようかと悩んでいた心配はすっかり消え、後は本人たち任せができます。

ドクターは忙しい中申し訳なかったのですが、動物園の診療所や手術室を見せてくださり、その後は動物の世話をするキーパーたちの働く裏側へ案内してくれました。

キリンへの飼料投与として青葉のついた2mほどの枝をくれました。
目ざとく見つけたキリンたちは、一頭、また一頭とゆっくり集まり、フンフン臭いを嗅いでおもむろに木の葉をバリバリとむしり噛みます。

その力強さ、しっかり枝を握ってないと、持って行かれそうです。キリンたちは葉を全部むしりとって、その後も枝の皮を上手に引き破いて食べ始めました。

その後爬虫類の飼育舎へ移り、コモドドラゴンという大とかげの給仕も見せていただきました。成獣で尾を含めると体長1.5m以上ありそうでしたが、食事は週に一回、それに立ち会うことができました。

動物園は冷凍ひよこを解凍し加温、そのうちの一羽にカルシウム剤を注入しておきます。だいたい一頭につき10羽を餌として与えるようです。

動き出したらコモドドラゴンは意外とすばしこく、インドネシアでは人も襲われているそうです。
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ホノルル研修旅行その1

当院のスタッフのある者たちは、勤続10年前後に達する者がいます。
それで先日はそんなスタッフに感謝の思いと、さらなる成長を願って海外研修の機会を設け、出かけてきました。

(そういうわけで休み中に病院に来られた方々には、御迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。)

さて小雨模様の出発当日、マル子が言いました。

「私、雨女なんです。きっと、雨ばかりかもしれません。」

「ほー、マル子は雨女か、それは困るなあ・・・」

笑いながら大きなトランクを提げ、地下鉄に乗ったのです。

ところが福岡空港に着いてカウンターで成田への搭乗手続きを終わった直後、係りの人が走って追いかけて来て言いました。

「すみません、お客さん。成田の空模様が悪くて、さっき手続きした便では、もし出発しても着陸できずに福岡に戻ってくる可能性が出てきました。

出発を早めて、今から出る便に変更されたら、羽田になら着陸できる可能性が高くはなりますが・・・」

「え! そうなんですか・・・、困ったなあ。羽田からバスで成田まで行かないといけないし・・・。でも、仕方ない。じゃあ、その便に変更してください。でも、あと十五分しかないのに、乗れるのですか?」

「乗れるようにします。」

まったく思いがけず、最初からつまづいてしまった。なんとか成田に行かないと、ホノルルへ予約した便に乗れません。(福岡からホノルル直行便は、その時はなかったのです。)

「急げ、急げ、」

4人でバタバタしながらいつもは通ったことのない、カウンターの内側の通路に案内され、小さな保安所を通り抜ける。いや、通り抜けたと思ったのだが、誰かが引き止められていた。

「誰だ? 何で止められたんだ?」

「マル子です。バッグにカッターナイフが入ってたみたいです。」

カメ子が呆れたように言う。

「まったく、そんな物、普通、持ち込まないだろう。何でバッグに入れてるんだよ、この急いでいる時に、」

「だって、荷造りの紐を切らないといけない時、使おうと思って・・・」

「スーツケースに入れとけば良かったのに・・・、もう、カッターなんか廃棄したら?」

「いえ、これは人からもらった記念の大切なカッターナイフだから。」

一歩も譲らないマル子。仕方がないので、それを保安所に預かり手続きしてもらい、封筒に名前と住所、便名を記載し、また4人駆け出す。

と、次のドアを開けたら、急に搭乗ゲートのすぐ近くに出ていた。

「わあ! もうここに出た! すごい近い、抜け道だ!」

どうやら特別の近道を利用させていただいたようです。
そういうわけで、予定変更で早い羽田行きに乗り換えたのですが、登場口でまたマル子にストップがかかりました。

「お客様、ちょっとお待ちください。申し訳ありませんが、お預かりしたスーツケースの名札がはずれて、多分マル子様の荷物だと思われるのですが、それを確認していただけますか?」

「なんだ、なんだ? どうした?」

「またマル子がトラブッています。」

「えっ? また、マル子か。」

こうして大きな黒いスーツケースが搭乗ゲートまで運ばれて来るまで待つことになります。

「はい、これです。間違いありません。」

マル子は神妙に荷物の確認を終え、4人は機内に乗り込む。
ところが無事出発したはいいが、この日は確かに天候は悪かったようです。

途中から機体はまるで山道を走るバスのように揺れ、しかも羽田についても数十分間上空を旋回し続け、着陸許可を待たねばならなかったようです。

ガタガタと揺れ続ける機中で私は気分が悪くなった。窓の外は夜の闇が包み、しかも雲の真っ只中で、街の明かりは全く見えない。

このまま4人が死んだら動物病院はどうなるのだろう。
新人で今回の研修には希望性のため参加をしなかったタマエが、さっそく病院を「タマエのペットホテル」とかなんとかに、作りかえるかも知れないなあ・・・。

カメ子やマル子達は今、(こんな旅行で死にたくない)と、自分の席で不安に陥っているだろうか?などと、考える。

隣席の妻はどうかと、ひそかに気配を窺うと、どうも悠々と寝ているようだが・・・。

(着陸まだかなあ、長いなあ・・・)

いよいよ降参したくなる頃、しかし飛行機はようやく滑走路に機首を向けるのでした。

ブルブル・・・ガタガタ・・・

翼が震え、車輪が音をたてて接地する。
この強風の中を、さすがにパイロットは無事に着地してくれたのです。

大勢の命を預かっているパイロットはすごい!

しかし、ホッとしたのもつかの間、これから荷物を受け取ると私たちは成田に向けて、さらに急がなければなりません。
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