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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

初月給40円

「電話をしていたのですが、猫の餌をもらえますか?」

ムッシュKが猫の療法食をとりにおいでになりました。ムッシュの猫は尿石症の持病があり、治療食を続けています。

「最近はすぐ忘れるもんで、こんな袋にお金も領収も入れて持ち歩いとるんです。ハハハ・・・」

ムッシュはカウンターで布製の巾着袋を広げながら笑う。

「最近は物忘れがひどいですからな。え?歳ですか?数えで90です。満でなら89歳ですよ。

運転免許更新では、脳のテストもせんとならんのです。いくつか映像を見せられて、後でそれを覚えとるか聞かれるんですが、いやあ、それが思い出せんとですなあ、アッハハハ。」

「そうですか、高齢者は記憶力のテストがあるんですか?」

「はい、もう来年の免許更新は受けずに返上しようと思うてますが、自転車もまだ乗ってますから。」

長い人生の歴史を秘めているのだろうなあと思いつつ、お話しを聞いたら、大正11年のお生れだそうで、当時の福岡中学から佐賀高校入り、さらに九州大学の工学部に進んだとかで、その頃としては大変優秀な人たちだけが進むエリートコースだったでしょう。

大学を卒業した戦争末期は佐世保で海軍に勤務し、エンジンの熱力学の研究をしたそうです。水力タービンやら蒸気タービンやら、そんなことも言われました。

「海軍の月給は40円、陸軍は30円でした。海軍の方が高かったんです。ハハハ・・・うーん、当時の大学卒の就職した人たちの平均給与も40円くらいでしたかなあ・・・。」

「男6人、女4人の10人兄弟の長男ですが、まだ全員健在です。」

それも珍しい話です。本当に長寿の家系であり、なお且つ幸運に恵まれないとあの戦争を10人無事には潜り抜けられなかったはずだと思いました。

「しかし友人や職場の関係者はもう、みんないなくなりました。昔の上司も、同僚もだれもいなくなってしまいました・・・。」

カウンターで笑いながらそうおっしゃるが、さすがに寂しいだろうと共感したのです。

人は皆、歳をとります。
長生きは幸せなことですが、孤独を感じることにもなるでしょう。

「年賀状が昔は150枚やり取りしていましたが、今は50枚です。」

幾つになっても、人は生きる限り、確かな希望が必要です。たとえいつかこの命が終わると分かっていても、最後の瞬間まで、ユーモアを抱えつつ勇敢に生きるためには、希望が必要です。

人生とは、この希望を見つけるための、旅なのでしょうか。

また間もなく、今年も年が暮れます。
一年間、この欄におつき合いくださったこと、ありがとうございました。
皆様に、神様の恵みがありますように。
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