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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

元気で困るけど、元気がなくても心配

「ローリーです。急に犬が吐き戻して、それからぐったりしてるんです。顔色に血の気がないみたいなので、連れて来ます!」

間もなく大きなゴールデンが運ばれてきました。さて、具合はいかに!?と一同緊張して待ち構えていましたが、ところが病院に着いた姿は意外と元気です。待合室をあちこち歩き始めました。

「おかしいわね、さっきは、ぐたっとしてたのに・・・」

マダムFが首をかしげ、申し訳なさそうな顔で、犬の容態の推移を話してくれました。

朝から元気だったローリーが、夕方になって自宅で急に胃内容を吐き戻したと思ったら、おや?と、思うほど元気が無くなったらしいのです。

これはただ事ではないと直感して、慌てて連れて来たのでした。

「ふーむ、それほど急にぐったりしたなら、もしかしたら心臓疾患でしょうか?ちょっとエコーでみましょうか?」

超音波の機械を心臓にあてるが、ローリー君はすっかり元気になり、調子づいておとなしくしてくれない。なだめすかしながら、なんとか調べるが、心臓の調子は普通のようです。

「念のため、血液検査をしておきましょうか?」

食欲はあるらしいし、何も出てこないかと思ったが、念のため採血して機械にかけます。
また、採血が一苦労。

四人がかりで採血にとりかかります。一人はたえず右左に振り向ける顔を抑え、一人は診察台から滑り落ちないよう腰を支え、もう一人は足を動かさないよう保定し、そして私が採血です。

三分ほどドタバタが続きます。

「フー・・・」

しかし、苦労して採血した甲斐がありました。

「ムッシュ! 大変だ!こりゃ、肝臓がひどく悪いですよ!きっと、肝臓が悪くて吐いたんですよ! いつから悪くなったのかな?えっと、最近は食欲はありましたか?

え?ずっと元気でしたか・・・。ふーむ、そうすると、何か薬物か、毒物を口に入れて、急変したかもしれませんが、心当たりはないですか?

何もありませんか? うーむ、どこからでしょうね・・・」

肝臓酵素値の一つが、飛びぬけて跳ね上がっていた。よっぽど変なものを口に入れたかもしれないが、わからない。

農薬、肥料、花壇の球根、変なものを食べた覚えはないと言う。

それにしても、とりあえず吐いてから、段々気分は良くなったようなので、肝臓保護剤を与えて、様子をみてもらうことになりました。

・・・それから一週間です。
ローリー君がもう一度、検査に来ました。

「先生、もう、あれから、元気すぎて、手に負えません。困っとります。」

「あ痛たたた!」

ローリーが診察台で、抑えているムッシュの下顎に頭突きを食らわした。

「いててて! 舌が切れた。ぶつかって舌を噛んだぞ! おう、メガネがはずれる! こら、静かにしろ!おう、こらっ!」

またまた大騒ぎしながら、採血です。

「前のゴールデンは、そりゃあ、そりゃあ良い子で、おとなしくて、病院でもどこでも、言われるままだったのに、どうしてこうも違うもんですかね?

いつもふたこと目にはそう言うんですが、そしたら娘が、『お母さん、前の犬と比べたらいかんよ。可哀想よ。』と、言うんですよ、フフフ・・・。」

立派なお嬢さんです。犬は、比べられても、少しもへこまないでしょうが、いや、娘さんの言われることが大事なことでしょう。

こうして、二回目の血液検査は終わり、かなり肝臓は改善していることがわかりました。

やっぱり一時的なトラブル、何かの毒物だったのかもしれません。

もうちょっとだけ薬を飲めば、大丈夫そうです。

私たちスタッフも、ほっとして、元気なローリー君を見送ったことでした。
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