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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

パン屋で冷や汗

「そうだ、今日はパンでも買って帰ろうかな・・・」

ある日のこと、そう思いついて、我らがマル子はふらりと近所のパン屋に寄りました。
個人経営の、小さな可愛いパン屋さんです。

チリンチリン

ドアを開けると涼やかな鐘の音がなります。
マル子は入り口でトレイとトングを取ると、「今日は何があるかな!?」と、パン棚の前に立ちました。

「えーと、まずヨモギパンと、へへ、これが一番なのよ、それからブルーベリーパンと、えーと、あとは定番のカレーパンと、ハム・マヨネーズも美味しそうだから・・・」

いくつかパンを選んだマル子は、今、まさにレジの方へ行こうとした時でした。

「ん!?」

なぜか突然、今日は財布を持ってくるのを忘れたような、ひらめきが浮かびました。

トレイを片手に持ったまま、右手に掛けたバッグの中を探ります。(マル子は左利きなのです)

ガサッ、ゴソッ・・・

やっぱりありません。いくら探しても財布は入っていません。

(しまった! やっぱり、忘れて来てる。)

パンを載せたトレイは、右手に持ったまま、マル子は狭い店内で、立ち往生し、目まぐるしく考えます。

レジの前ではなんだかご主人が、計算するのかな?どうするのかな?という予測を立てながら微妙なタイミングを見計らいつつ、それとなく待っているようです。

すでにパンは、取ってしまった。しかし、お金がない!

マル子危うし! マル子は追い詰められて、呼吸が荒くなりました。

(どうしよう、今更、パンを返したら、マナーにもとるし、かといって・・・)

どっとマル子の背中に、冷や汗が流れてきます。

この絶体絶命の危機の時、また、ふっと、マル子の頭に浮かびました。

(そうだ! 定期入れに、万が一の時のため、昔、千円札を入れていたわ! もしかしたら、あれがまだ、あるかもしれない!)

マル子は一縷の望みを繋ぎながら、震える指で定期入れを探し出すと、(お願い、入ってて!)と、祈りつつ中を探りました。

と、薄い紙が指に触ります。

(わっ、あったわ!)

胸をドキドキさせながら取り出すと、それは紛れもなく、古い千円札でした。長年押し潰されたままなので、本当に薄っぺらく折りたたまれていますが、三つ折を開くと、夏目漱石が笑っているようです。

「わー、助かった!」

曇っていたマル子の表情が、いっぺんに明るくなりました。

そのまま四歩進んで、レジに前に立ちます。

店の主人は、次々に変わるマル子の表情を見て、変に思ったでしょうか?

でも、いいんです。
マル子、その日、最大の危機を脱出でした。
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