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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

40年勤めて

「こんにちわ!」

ムッシュKがお出でになりました。
ムッシュは税理関係の事務所で、お勤めをされています。

「いや、なかなか、景気は厳しいですね。」

「本当に、でもムッシュは毎日美味しいもの食べて、優雅に暮らしておられるでしょ!」

「ハハハ・・・、イエイエ、先生、わたしは昨年、定年で退職してます。その後、再雇用で、一応あと五年勤めるようにはなってますが、給料はガクンと下がってますよ。」

「あら、ムッシュ、もう昨年定年でしたか? へえ、・・・あちらの事務所は長く勤められたんですか?」

「ええ、私が夜間の大学に行ってた頃からですよ。その頃今の事務所でアルバイトさせてもらったんです。そしたら、

『うちでこのまま働かないか?』と声をかけていただいて。

『もし、大学を続けさてもらえるなら、働きますが。』

という条件でOKを戴いて、それが21歳の時でした。それから40年間、ずっと、定年まで、ハハハ・・・」

ムッシュは、厚いメガネの向こうで目を細くして笑っておられます。

すごいなあと、思いました。

あちらこちらと渡り、色々な世界に飛び込んで、次々新しい挑戦をする人もすごいですが、

一つの事務所で、同じ仲間と、40年間、ずっとこつこつ仕事を続けられるのも、すごいことです。

辞めたいとか、変わりたいとか、思った日々もきっとあるでしょう。でも、今の道を、選んだのです。

振り返って、どんな思いでしょうか・・・?

皆さん、人生は思っているほど、長くはありませんよね。

でも感動は、演奏会でも映画でも、そして人生でも、いつでも最後に用意されているものだと思うから、楽しみですね。
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20円

先日のことです。

マル子がまた、パン屋さんに行った時のことです。但し今回は保護者のお母さんと一緒でした。

「ルン、ルン、ルン」

チーズパンが、いい香りです。
定番のカレーパンも、はずせません。

商品棚を周りながら、美味しそうなパンを、三つ、四つと選んで、トレイに載せます。いえ、お母さんが一緒なので、今日はもう一つおまけ、五個目をトレイに載せました。

あれもこれも食べてみたいのですが、そんなに買うわけにもいきません。レジに行って計算をしてもらいました。

一つ、ガチャガチャ、二つ、ガチャガチャ・・・

マル子は、見るともなくなんとなくレジを見ていました。

三つ目、ガチャガチャ・・・

(あれ? 今のパン、値段違うんじゃないかな・・・)

たしか、20円、高く打っているような気がしました。

急に胸がドキドキしてきます。

(たしか、違うような気がするな。でも20円くらいの事で、自分が違ってたら、お母さんにも恥ずかしい思いをさせるかもしれないし・・・)

マル子の頭の中に、色んな思いが駆け巡ります。

ドキドキドキ・・・心臓がなります。

迷いましたが、黙ったまま店を出ました。外で、思い切って言って見ます。

「ねえ、お母さん、あのパン、20円違ってると思うんだけど、どう思う?」

「えっ、あら、値段を違ってるの? そうね、どうしましょ。」

お店の前で二人で迷います。わずか20円のことですからいちいち確かめるのもどうかなと思いましたが、

「よし、やっぱり行ってくるわ!」

マル子の決心が固まりました。一人でもう一度お店に入ります。

ところがこれだけどうしようか迷って、ようやく心を整えて店に戻ったのですが、店の方は、レシートを確認もせず、あっさり20円を返してくれました。

ちょっと、拍子抜けでした。

「私は言おうかどうしようか、色々気をもんだけど、あっけなかったわ。」

どんな仕事でも、お客さんや、患者さんに、気がつかないところで、色々気をつかわせていることがあるのでしょうか?

申し訳ないことです。
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信じられない!

「へえ、・・・これ、美味しそう!」

ある日、仕事を終え帰宅し、一日の疲れを休めながら、カメ子がテレビを見ていた時でした。

某番組で、チェーン展開しているあるハンバーガーショップが、とっても美味しい「絶品エビバーガー」の紹介をしていた。

じっとその番組を見ていたカメ子は、やはり完全に絶品エビバーガーのとりこになってしまった。

「それに、フライドポテトをサービスしてくれるのが、いいわ!」

なんと、その番組では、お店に行って、絶品エビガーガーを注文した時、一緒に一つのあるキーワードを言ったら、数日間は無料でフライドポテトをくれるというのです。

「絶対、行ってみよう!」

カメ子は固い決心をして、ベッドにもぐりこんだ。

さて、翌日は休みでした。朝から、カメ子の頭は、絶品エビバーガーとフライドポテトのことでいっぱいです。

朝食は少なめにし、お昼を待ちます。12時になり、ドキドキしながらハンバーガーのお店に行きました。
時間が時間ですので、店内はそこそこ混んでいます。
カウンターに並んで、カメ子は心の準備をします。

(誰か、フライドポテトをもらう人は、いるかな?)

それとなく、前の人の注文を聞いていましたが、誰もキーワードを言う人はいません。そうこうしているうちに、ついに自分の順番です。

「いらっしゃいませ! お客様、お持ち帰りですか? 」

「あ、・・いえ、ここで食べます。」

「ご注文をどうぞ!」

「はい、えーと、あの、絶品エビバーガーを一つ・・・」

(ここで、キーワードを言わないといけないんだわ、キーワードは「信じられない!」なのよね。)

カメ子は無料のフライドポテトをゲットするために「信じられない!」と、言おうとしたが、担当の若い青年が、とても真面目そうな顔をした人で、カメ子の返事をじっと待っているから、「信じられない!」の声が言い出せない。

「えーと、絶品エビバーガーと、えーと、コーヒーと、・・・」

カメ子は、キーワードが言い出せない。

(わたしが、信じられない!なんて言ったら、青年は

 「・・・え?何ですか? この人、何言ってるんだろう、変な人だなあ・・・」

って、怪訝な顔をされるかもしれない。キーワードを知らない人だったらどうしよう。)

「お客様、絶品エビバーガーと、コーヒーと?・・・」

「は、はい、それでいいです。」

カメ子はうつむいたまま、そう答えた。

ついにカメ子は、そのいかにも真面目そうな青年の前で「信じられない!」のキーワードを言えなかったのです。

その後、カメ子は絶品エビバーガーとコーヒーだけを持ってションボリ二階に上がり、悔しさに情けなくなりながら、ゆっくり包みを開ける。

(どうしてわたし、キーワードが言えなかったんだろう。あれほど楽しみにしていたのに・・・。)

カメ子は、絶品エビバーガーをゆっくり食べる。プリプリしたエビがたくさん入っていて、予想通り美味しかったが、フライドポテトはゲットできなかった。


カメ子、がっかりするな。

そうやって、人は、自分で自分というものが、分かっていないことに、気がつくんだ。

人間って、複雑なんだよ。

そして、そんな自分が、いとおしくなるんだよ!!
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川で捕まえたカラス

「カラスを保護したので、診て下さい。」

午後の三時をまわった頃、青年が、ダンボールを抱えてお出でになりました。

(むむ、カラスか・・・)

時々カラスが連れてこられます。強い、賢い鳥ですから、保護される時は、相当弱っています。

「川に落ちて、飛べなくなっていたんです。」

ダンボールの中を覗くと、まだ成長しきっていない、若い個体が入っている。

「川にいたんですか?」

「はい、朝から川にいたのは見てたんですが、いつまでもウロウロしていて、雨も降ってきたし、川が増水すると、流されてしまうと思って助けました。」

雨の中を、わざわざ川に下りて行って、あっちの草むら、こっちの石の上と、逃げるカラスを追いかけてまわったのだろう。彼の好意など知るよしもなく、強い嘴で噛みつかれながらようやく捕まえたのだろう。その優しさに、想像しただけで、頭が下がる。

「どれどれ・・・」

薄手の革手袋をして、カラスを箱から出す。

「ガーガー、グエッ、グエッ・・」

抵抗するが、体力が落ちているようで、羽ばたかせることもなく、両羽を包み持つことができた。

「イテテテテ・・・」

しかし、頭を360度回しながら、手袋に噛み付いてくる。それが結構痛い。手袋を破りそうである。慌てて、首根っこまで指を移動して保定する。

落ち着いて調べると、右足が大きく外側に開き、体重がうまく支えられないようだ。左足の爪だけ切られたように短く磨り減っている。

何かの病気と言うより、胸筋はげっそり削げ落ち、栄養不足に見える。目は澄み、嘴ががっしりと太くて、ハシブトガラスと思われた。

「ムッシュ、この子はまだ若いと思います。でも、生まれつき右足が奇形か、障害を受けたと思います。だから、いつも左足ばかり使ってきたので、爪がそちらだけ、こんなに短くなっていると思いますよ。

うまく食事が得られなくて衰弱したか、病気で弱ったかまだわかりませんが、とにかく手厚い療養、看護が一番です。」

抗生物質と栄養剤を使って、様子を見てもらうことにした。

カラスの世話は、本当に大変です。きちんと治療しようと思えば、最低でも四畳半くらいの部屋が必要です。

ニュースでは、台風4号が沖縄南方沖を通過していると伝えている。明日には九州に近づくと言う。

カラス君、捕まってすぐパンは食べてくれたと言うから、回復の望みがある。

今日から、いっぱい食べてくれたらいいけど。そして、力が漲ってきたら、カラス君

はたしてもう一度、空を舞うことができるだろうか・・・。
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エアコン

「ゴトゴトゴト・・ブオーーン・・ブオンブオン・・」

暴走族のエンジン音ではありません。
手術室の古いエアコンが、いよいよ駄目になっています。病院新築当時の機械なので、21年くらい使ったでしょうか。

「もうだめですね。」

「うん、もう、限界かな。」

スタッフ達とエアコンを見上げて、話す。

まだ壊れたわけではないが、古い機種だから電気代は高いだろうし、冷房効果も弱いだろう。それよりもなにしろ、手術台に載せられた犬がブオンブオンの騒音を聞いたら、ギョットするかもしれない。

いや、私も最近は、その大きな音に呆れて、エアコンをじっと見上げることがある。犬や猫だって、内心、心配にちがいない。

「ワンワン、先生さんよ、こんなところで手術して、大丈夫ですか!?」

「心配するな、別にエアコンが手術するわけじゃないんだ。俺がするんだから、安心して眠ってろ!」

そう言い聞かせるが、しかし、快適、スマート、とは言い難い。そういうわけで、とうとう、新しいエアコンに取り替えることにした。

六月のある昼に、親子の電気屋さんが来てくれて、大きなダンボールを降ろし、中からピカピカのエアコンを取り出す。

「古いエアコンの跡は、穴は塞ぎますが、壁の色がそこだけ変わりますけど、いいでしょうか?」

「いや、目立ちますね、でも、それは仕方ないでしょうね。」

壁紙を全部張り替えるわけにもいかない。天井近くの隅っこだけだから、これは犬たちに我慢してもらうしかない。

「おーい、ダクトを引っ張ってくれ!」

「はい、引っ張りますよ、いいですか?」

「電線を通すぞー。引っ張れー・・・」

かくして電気屋さんたちが汗を流しながら三時間ほど工事をしてくださり、手術室に新しいエアコンが付きました。

色あせた壁紙を背景に、小さな緑の光を輝かせて白いエアコンが静かに冷気を放出してくれます。

今年の夏は、静かに冷やしてくれそうです。
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骨折なんて平気?でした

「いやあ、こわいなあ! 大丈夫かなあ? 先生、知ってるでしょ、この犬のこと・・・」

ムッシュKがジャックラッセルのカンナちゃんを抱きしめて、笑いながら言われました。

カンナちゃんは三か月前に前足を骨折し、手術を受けました。肘関節にスクリュー(ネジ)を入れて固定し、簡易ギブスも装着していたのです。

それから季節はめぐり初夏、六月も中旬になり、療養期間を終えたのです。いつまでも金属の異物を骨に入れておくのは望ましくないので、昨日再手術をして入れていたスクリューを除去しました。

「あー、すっきりした!」

と思ったかどうかはわかりませんが、カンナちゃんは一日たつとケロリとした顔で、床に下すとハッシハッシとリードも千切れんばかりに引っ張ります。

「ムッシュ、ジャックラッセルは、むき出しのエンジンみたいにエネルギッシュですからね。」

「ハハハ・・・、そうなんですよ、もー、おとなしくしてくれるかなあ・・・」

ムッシュは心配そうに、眉をハの字にする。

昨日のレントゲンでは、抜いたスクリューのところがぽっかり虫食い状態の骨の穴になっていました。

「ムッシュ、ほら、ここのところがこんなに空洞ですから、まだしばらく無茶をしないように、しといてください。」

「ほー、なるほど、いやどうも、お世話になりました。」

ムッシュは肩まで抱き上げたカンナちゃんが、暴れて零れ落ちそうになるのを食い止めながら、頭を傾けて帰って行かれました。

カンナちゃんとの治療は、通院を続けながらだんだん仲良しになり、楽しい三ヶ月でした。

元気一杯で家に凱旋したカンナちゃん、
無事に、自宅療養が進みますように!!
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絵本の図書館

「今度、このようなことを始めましたよ。」

ラブラドールのロンちゃんを連れて、狂犬病ワクチンを打ちにムッシュがお出でになりました。

ロンちゃんは10歳になる黒い毛がツヤツヤした賢い子です。その時、ムッシュが私に一枚の青いリーフレットを手渡して下さいました。

「へえー、これは何ですか?」

そこには、子供の絵本の図書館を、開設したという案内がありました。

「先生、以前、ご存知の通り、わたしの職場で事故がありました。そのために話し合いをし裁判を通して7年間が経過しました。それもようやく終了させていただきましたが、それからさらに5年たちました。

5年たちましたので、少しこのようなことをさせてもらってもいいのだろうかと考えまして・・・」

言葉は少し違うかもしれませんが、そのような遠慮しながらの心情をお聞きしました。

事故と言うのは、かってムッシュの施設で、スタッフが処置中に、お子さんが亡くなることがあったのでした。

ご両親の驚きと悲しみは、言葉で表せないものであったでしょう。ムッシュも衝撃を受け、あってはならない事故であるゆえに、誠心誠意対応されたことでした。

小児施設の日常抱える大きな困難と問題も、浮かび上がる出来事だったと思います。
しかし、親御さんの納得は得られず、裁判が行われたようです。

ご両親の心痛も当然のことながら、担当したスタッフ、そしてムッシュの苦悩もいかばかりであったかと思うと、察するに余りある出来事でした。

人生には、大きな責任に直面することがあります。解決できない問題に、押し潰されそうになりながら過ごす時期があるかも知れません。
本当に苦しい、逃げたくなるほどの苦悩の時期に、それでも生きなければならないことがあると思うのです。

しかし、ムッシュはそれを黙々と担い続け、そして裁判が終わって5年の時を待ち、今、改めて子供のための絵本の図書館をライフワークとして始動されたと言われるのです。

それは、子供に関わる仕事をしているムッシュが、案じていたこと、すなわち親が子に絵本を読むことを教えることが少ない時代に、本読みのきっかけになるようにとの願いを込めた働きのようです。

ムッシュの心の深いところの思いは神だけがご存知であり、私は詳しい事情はわかりませんが、そのリーフレットを読み、陰ながらムッシュの絵本図書館の働きを応援したいと、願った次第です。
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援護があれば、勇気百倍

「最近、猫がさ、うちの庭によく来るのよねえ。」

待合室にいる里親探しの可愛い子猫を見ながら、ポチちゃんのお母さん、マダムOが話されました。

「春だからさ、花を植えるでしょう、そうしたら、なんだか猫が入ってくるのよ。」

「ああ、そうなんですよね。土を耕したりすると、柔らかい土が好きなのか、猫が来ておしっこするんですよ。」

隣で聞いてたマル子が、相槌をうつ。

「でも、ポチちゃんがいるのに、庭に猫が入ってくるのですか?」

「ポチは弱虫だもの。猫の方が強いのよ。ただ、わたしが庭に出ると、ポチは吠えかかって行くんだけどね、わたしがいない時は、後ずさりするのよ。弱いんですよ。」

「ハハハ・・・、そうなんですね、猫の方が強いのか。」

私たちはクスクス笑ったが、いあや、これはポチ君に失礼だったかも知れない。

わたし達人間だって、同じだ。

バックに、大きな組織や大企業、大きな力が控えていると自信を持って好き勝手にやりたい仕事を進めるが、

逆に自分一人の時、向こうの力が巨大で途方もない大きさで立ちはだかる時は、あきらめて吼えるのをやめてしまうのです。

ポチ君とそんなに、変わりませんでした。

ポチ君を笑う資格はありません。
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