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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

絵本の図書館

「今度、このようなことを始めましたよ。」

ラブラドールのロンちゃんを連れて、狂犬病ワクチンを打ちにムッシュがお出でになりました。

ロンちゃんは10歳になる黒い毛がツヤツヤした賢い子です。その時、ムッシュが私に一枚の青いリーフレットを手渡して下さいました。

「へえー、これは何ですか?」

そこには、子供の絵本の図書館を、開設したという案内がありました。

「先生、以前、ご存知の通り、わたしの職場で事故がありました。そのために話し合いをし裁判を通して7年間が経過しました。それもようやく終了させていただきましたが、それからさらに5年たちました。

5年たちましたので、少しこのようなことをさせてもらってもいいのだろうかと考えまして・・・」

言葉は少し違うかもしれませんが、そのような遠慮しながらの心情をお聞きしました。

事故と言うのは、かってムッシュの施設で、スタッフが処置中に、お子さんが亡くなることがあったのでした。

ご両親の驚きと悲しみは、言葉で表せないものであったでしょう。ムッシュも衝撃を受け、あってはならない事故であるゆえに、誠心誠意対応されたことでした。

小児施設の日常抱える大きな困難と問題も、浮かび上がる出来事だったと思います。
しかし、親御さんの納得は得られず、裁判が行われたようです。

ご両親の心痛も当然のことながら、担当したスタッフ、そしてムッシュの苦悩もいかばかりであったかと思うと、察するに余りある出来事でした。

人生には、大きな責任に直面することがあります。解決できない問題に、押し潰されそうになりながら過ごす時期があるかも知れません。
本当に苦しい、逃げたくなるほどの苦悩の時期に、それでも生きなければならないことがあると思うのです。

しかし、ムッシュはそれを黙々と担い続け、そして裁判が終わって5年の時を待ち、今、改めて子供のための絵本の図書館をライフワークとして始動されたと言われるのです。

それは、子供に関わる仕事をしているムッシュが、案じていたこと、すなわち親が子に絵本を読むことを教えることが少ない時代に、本読みのきっかけになるようにとの願いを込めた働きのようです。

ムッシュの心の深いところの思いは神だけがご存知であり、私は詳しい事情はわかりませんが、そのリーフレットを読み、陰ながらムッシュの絵本図書館の働きを応援したいと、願った次第です。
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