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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

現役引退の日

「こんにちわ、先生!」

ムッシュSのご家族がおいでになりました。でもその日連れて来たのは、いつもの黒いラブでなく白いラブラドールでした。

「あれ?ムッシュ、マダム、 どうしたんですか?」

「ほら、トニア、先生に挨拶しなさい。お久し振りですって。」

「え! これ、トニアちゃんですか!?」

「そうなんです。十年ぶりに、戻ってきました。」

「へえ、懐かしいなあ・・・十年もたつんですか?」

トニアちゃんは、盲導犬のパピーウオーカーをしているムッシュのご家族が子犬時代に一年間育てた子です。

一歳になって訓練所に入り、無事盲導犬となってあれから活躍してくれていたのです。
すっかり忘れていましたが、そうか、もう十年たったのだそうです。

「トニアも高齢になり引退する事になりました。それでまた、引き取る事にしました。」

「ふーん、引退か・・・・」

十年間、黙々と頑張ったんでしょう。
誰も、褒めてくれなくても、雨の日も雪の日も、使用者の目となって、トニアは歩き続けたんですね。

待合室の床にのんびり寝転び、余裕たっぷりの表情です。

「うちにはミミがいるから、娘の住む高知に連れていきます。」

お嬢さんは、今は嫁いで高知に行かれたのですが、そちらで世話をされるようです。

「ふーん、そうか、・・・十年ですか・・・」

人の十年は、あっと言う間だが、犬の十年は一生にも匹敵する。トニアはその命を、誰かのために使ってくれたのでした。

「お疲れさん、高知で、ゆっくり暮らしてね!」

こりゃあ、十年生きるということは、
犬に負けないような十年を
生きていく義務があるのかもしれないな・・・。
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