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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

育ったら、返してね!

「先生、このCDを良かったら聞いてください。」

残暑のまだ厳しい八月の昼下がりでした。ムッシュHがフィラリアの薬を取りに来られたついでに、一枚のCDをくださいました。

「月下美人」というタイトルで、おもてはキム・ヨンジャという美しい歌手が微笑んでいます。

「え? これをくださるんですか?」

「はい、わたしが、月下美人を育てていますでしょうが。それと同じ名前だったので、つい、買ったんです。カラオケ用に練習しましたが、もう覚えたもんで。
良かったら先生も聞いてください。もしいらんかったら、捨ててください。」

「ええ、ありがとうございます。聞かせていただきます。」

「毎日暑いでしょうが。うちにおってクーラーつけてたら、女房からもったいないと怒られますから、外へ出るんです。
一日フリータイムのカラオケに行って、一人で歌ってすごしてます。何時間おっても、550円でしょうが、ハハハ・・・。

もういらないし、先生も、カラオケに行くと聞いてましたから。

先生、私は昭和12年の生れなんですよ。

唐人町で両親はパーマ屋をしてました。黒門市場で。
あのころは、こんな丸いのに、炭団(たどん)を入れて、パーマしてたんですよ。

その後は電気コイルのようなものを頭に載せてパーマをした時代もありましたが、やがて薬液になりますけど・・・。

先生、私、未熟児で生まれてきたんですよ。それで最初は、育つかどうか、しばらく、母の姉の所におかれていたんです。母は雲仙の出なんですが。

その頃伯母さんは雲仙のふもとの有家(ありえ)ほうに嫁いでいたんですが、漁師の女将さんになっていました。でも、子供のいなかったもんですから、預かってくれたんです。

『うまく育ったら、返してね!』

って、約束で預けられて、それでなんとか死なずに育ったんで、わたし、唐人町に帰ってきたんです、ヘヘヘ・・・。

だから私には、母が二人いたんです。それ以来伯母さんにはずっと大事にしてもらいましたよ、・・・。

今では、二人とも、もういませんけどね・・・。」

ムッシュはいろいろ楽しい、また、胸を打たれるような話を、笑い飛ばしながら話して帰られた。


今、私の手元には、キム・ヨンジャが、微笑んでいます。
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