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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

難産で

「大変なんです! 赤ちゃんが、出なくて・・・」

西の空がオレンジ色に輝き出す、秋の夕暮れでした。マダムYが蒼い顔をして、慌ただしく入って来られます。抱えたバッグには猫のチャゥちゃんを連れています。

「マダム、どうしましたか?」

「先生、ほれ、このとおりです。私、仕事に行ってて、さっき帰ったら、こんな状態でした。」

ちょっと元気のないチャゥちゃんが、診察台に上がりました。伏せてうずくまるチャゥちゃんのお尻を見てドッキリ。尻尾の下に、小さな新生児の首が出ています。

「あれ! ・・・うーむ、これは難産に陥ったんですね。」

「もう生まれる。帰ってきたら、生まれているかもしれないと思いつつ出勤したのですが、まさか、こんなことになっているとは。」

首だけ突き出た子猫はすでに干からび、血の気も失せて、もう死んでいると判断された。しかし、お腹はまだだいぶ大きい。きっと他の赤ちゃんが、中に閉じ込められているはずだ。

さっそく帝王切開の準備です。

「もう、お腹を切らないと出て来れないと思います。手術をして、よろしいですか?」

「はい・・・お願いします。」

というわけで緊急手術に入ったのです。

「早く術野の消毒済ませて!急げ! 」「止血用バイポーラを出して!」「熱いお湯でマッサージして!」「呼吸促進剤打って!」

子宮にメスを入れ、羊水に包まれた子猫を取り出して、生存を確認します。

「こっちは死んでるね。・・・この子は、顔が潰れてる。・・・うん?この子は、まだ生きているぞ!」

かすかな心拍動があるのを見て、大急ぎで処置しつつ、出て来た一匹、一匹をスタッフに委ね、手術を進めます。

結局お腹の子猫のうち、二匹はすでに死んでいました。産道の途中で圧迫を受けたようです。強いいきみのために、体が圧迫変形していました。

他の三匹はまだ心臓が動いていましたが、そのうち二匹は自力呼吸をしてくれず、残念ながら助けられたのはわずかに一匹でした。

その一匹は盛んに動き回り、生まれてすぐ、腹が空いたのでしょう。おっぱいを求めて、鳴き声も大きくなってきました。

「・・・・・」

「・・・・・」

「一匹だけでも助かってよかった・・・」

「いや、せめてもう一匹は助けたかった・・・」

それが私の、正直な心の思いでもありました。

「いえ、あの状態を知っていますから、もう覚悟はしていました。」

以前より、捨て猫などの面倒を見ておられるマダム夫妻は、迎えに来られた時穏やかにそう言われると、箱に入った、80〜90gの小さな四つの体を覗きながら、二人で相談を始めた。

「どうしようか!? あんたとこの、山に、持って行って埋める?」

「・・・、そうね、埋めようか?」

生まれてくることができなかった子猫達は、どうやら埋葬してもらえるようです。
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