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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

街灯の下で

それは17年前の丁度今ごろの話しです。
秋も深まり、吹き抜ける夜風が冷たくて、厚手のコートが欲しくなる11月でした。

マダムFはようやく仕事を終え、夜の十時ごろコツコツと靴音を響かせながら、団地の中、自宅に帰ろうとしていました。

「あー、しんど。毎日こんなじゃ、まいっちゃうわ・・・」

ぶつぶつ言いながら団地の中にある中央公園を通り過ぎていた時です。暗闇にぽっと浮かび上がった街灯の下に、一匹の茶トラの猫が座っているのが目に入りました。

「あら、猫ちゃん、あなた、こんな所で何してるのよ。」

通り過ぎながら何気なく声をかけたのですが、そしたらなんとその猫は小走りでマダムの後を追いかけてきたのです。

トットットット・・・・・・

「えー、ついてくるの? ・・・あなた、家はないの?」

まさか猫がついてくるとは思っても見なかったので、マダムは足を止め、その猫のほうを振り返って思案します。

(困ったわね。呼んだのは私のほうだし。でも、団地だし。でも・・・・)

考えがまとまらず猫を見下ろしているうちに、その猫はマダムに体を巻きつけるように擦り寄り、くるりくるりと足の周りを回りました。

フッと、マダムの心に連れて帰ろうかという思いが浮かびます。それは判断とか、考えたとかそういうものでなく、情が先に動いたのかもしれません。

「しかたないね、うちにくる?」

マダムはその若い猫を抱き上げると、自宅に連れ帰りごはんをたっぷり上げました。

だけど次の日、マダムが仕事に行っている間に、息子さんが猫を追い出したそうです。

「あら、猫ちゃんは? あなた、猫、追い出しちゃったの?」

「だって、僕、猫、好きじゃないし。」

「もう、可哀想じゃない・・・」

マダムは外に出て捜しましたが、もうその猫は見つかりませんでした。

(もう、どこかに行ったかな?)

それから二日たち、三日たっても、猫は見当たりませんでした。
しかし四日目のこと、マダムが家に帰ると、その猫は戸口で座って待っていたのです。

「えーっ! 猫ちゃん、あなた、よくここがわかったわね。戻ってきたの!?」

だって、団地は60も70も同じような棟が並んでいます。
(こっちの、階段だっけ?)
と、人間だってなかなか覚えられないのに、たった一晩過ごした家を、よく覚えていたなあと、驚かずにはおれませんでした。

「あれから17年なのよね。先生は、あの時、『この猫は若いから十年くらい生きるでしょ』って言われたけど、もう17ねんですよ。
私とどちらが長生きするか、わからなくなったわ!」

マダムはそう言いながら、帰っていかれました。

あ!説明し遅れましたが、最近、マダムがチャー君を連れて、お顔の怪我を治療に来られた時の、会話です。
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