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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

晩秋の月光

11月も終わりに近づいたある日、14歳の高齢猫の乳腺腫瘍摘出手術がありました。

猫の乳腺に出来たしこりは、悪性が多いと言われています。できれば早いうちに取った方が良いのです。でも、14歳となるとちょっと考えます。手術したほうが本人にとってい良いか、どうか。

とくにその子は痩せた小さな可愛い子でした。体重がわずか1.8kgまで減っています。それは猫の限界体重に近い値です。

飼主さんは家に帰って相談されました。そしてレントゲン検査では今のところ胸に転移も明らかでないのを確認して、手術になりました。

痩せ細った体に麻酔をし、最初に卵巣をとり、それから腫瘍へと移りました。鼠径リンパ節まで除去して手術は終わりです。
保温台に載せていましたが、終わった時体温は33℃まで下がっていました。

あとはゆっくり休んでもらいながら、回復を待つだけです。

「とにかく無事に終わって良かったね!」

夜も九時過ぎ、片づけを終え裏口から病院を出るとすでに冬の冷気です。

なんだか明るい気がして夜空を見上げると、東の空に煌々と大きな月が輝いています。満月に一日早いかな?という大きさ。

( 葉の落ちて 月光冴える 紅葉道 )

月を見て句をひねりながら、ほとばしる文才?に自己陶酔しかけていると、突然マル子が叫びます。

「わあ、明るい!LEDライトみたい!」

(おい、おい、マル子。このロマンチックな夜空に、LEDなんか、持ち出すなよ・・・。)

がっかりした私は、マル子に向かって囁きます。

「ほら、見てごらんよ。あの月のちょっと上に、輝く星が二つあるじゃないか。あれが、僕と君だね。」

「ホホホ・・・、先生、あの二つの星は、永遠に遠く離れているんですよ。何万光年もの距離でね。ホホホホ・・・・」

軽く鼻先で笑い飛ばすと、マル子はさっさと帰って行ったのでした。
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