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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

降ってきた晩白柚

ある夜、マドモアゼルとムッシュが可愛いチワワを抱いて来られました。

「テーブルから、果物が落ちて、チーちゃんに当たったみたいです。」

大事に抱えられているチワワを見ると、息づかいが荒く、落ち着かない表情です。

「果物?ですか、 何が落ちたんですか? どれくらいの高さから、ワンちゃんのどこに当たったのですか?」

「えーと、あれ、なんて言うのかしら・・・、大きなみかんのような・・・」

「夏みかん? はっさく、・・?」

「もっと、大きい・・・」

「あー、えーと、晩白柚(ばんぺいゆ)!」

「あー、そんな名前だったかな・・・、でも、どこに当たったのか、直接当たったのかバウンドして当たったのか、わからないんです。」

「ふーむ・・・」

私は、時々スーパーなどで陳列されているあの巨大な黄色い果実を思い出した。

(うむ、あれは、落ちてきたら、危ないなあ・・・)

何しろ大きなものでは、4kg以上あるらしい。人であっても、あれが落ちてきたら肋骨を折るかもしれない。

血液検査では肝臓酵素値や腎臓の値がやや増加し、腹部へのダメージが疑われた。白血球数は二万を超えている。

エコーでは膀胱の破裂は見られなかった。

対症療法でその日は様子を見たが、翌日まったく食べないと再び来られた。ほとんど歩こうとせず、薬も飲まない。

でも、診察台では、チーちゃんは、しっかりした目をしている。

こんな時、獣医は迷う。

内臓に深刻なダメージが発生しているのか、それとも精神的なものなのか・・・

お腹を開けるか開けないかで逡巡し、しかしどうも回復しそうな気がしてならないので、もう少し点滴を加え様子を観察することにした。

心配しつつ、忍耐して見守る二日目、三日目、そして四日目。

元気は少しづつ出ているのは間違いない。

そして四日目の夜です。
チーちゃんはその日の点滴を終え、帰宅したらやっと食べ初めてくれたと連絡が入りました。

(良かった! ようやく食べてくれたか! 一安心!)

食べるはずと思ってはいても、本当に食べるかどうかは、その姿を見るまでは安心できない。

良かった!でも、こんなに回復に時間がかかったんだから、本当い晩白柚が、テーブルからお腹を直撃したのかもしれない。

その翌日から、食欲はさらに急上昇、あとは順調な回復を見届けるだけです。

それにしても意外な物が凶器に変わり得ることにびっくり。

これからは、晩白柚を見ると、一生この事件を思い出すでしょう!!
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