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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

遅い救急車

「この前ですね、うちの家のすぐ前で事故が遭ったんですよ。」

診療の合間に、マル子が話してくれた。

「青年がバイクに乗っていて、飛び出してきた猫を避けてひっくり返ったんです。

近所のおじさんがすぐ駆け寄って、『誰か! 救急車を呼んで!』って、叫んで。

それからうちのお父さんも、駆け付けたんです。
(マル子のお父さんも救急車に乗る救急隊員ですが、その日は非番のため自宅にいました。)

『ここはどうですか? 痛みますか?』

『ひー、いてて、いてて・・・』

『うーむ、もしかしたら、骨が折れてるかもしらんね。』

青年を道端に座らせて、応急手当てをしながら救急車の到着を待ったんです。

集まった近所の人みんなで、道の向こうのほうを何度も見ながら、救急車が来るのを待ちました。

(まだかなあ?・・・、まだかなあ?・・・)

みんなの思いは、一刻も早く救急車が来てくれるようにという願いで一杯でしたが、なかなか来ません。しかし、そばに私の父がいるので、言い出せず、みんな黙っていたんです。

でも、みんなが黙っているので、沈黙の中ついに私のお父さんが自分で言いました。

『救急車、来るのが遅いなあ…』
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モップが折れた

「こんにちわ、ダスキンです!」

いつもお世話になっている担当の女性が、元気良く入ってこられた。

「あの、これ、御自宅用のモップの棒の交換です。奥様が、折れたとおっしゃってましたので。」

「あ、そうなんですか。ありがとうございます。じゃあ、預かっておきますね。」

にこやかにマル子が、応対した。

担当の方が帰られた後マル子は、預かった赤い棒を撫でまわして、しげしげと見ながら首を傾げた。

「どうしてこのモップが、折れるんでしょうねえ?」

「ああ、それはね、実はうちの奥さんがモップで僕を叩いたんだよ」

私は茶化して答えたのだが、直ちにマル子はこちらも見ずにひと言。

「奥さんに、刃向うからです。」
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噛まないでください

「危ないよ、手を出したら!」

診察室に入ってきた犬を見て、不慣れな看護士がすぐ抱きかかえようとするとき、注意することがあります。

動物を診療していると、すぐ触っても大丈夫な犬と、様子を見ながら近づいたほうが安全な犬は、なんとなくわかってきます。

ベテランは怪我をしないように用心して犬をハンドリングしますが、それでも時々不覚を取り、外科のお世話になることもあります。

ところで、動物看護士は危険な職業といえば、そうかもしれませんが、先日聞いた話しによれば、人のナースも結構危険な職場のようです。

「あのね、介護が必要で入院してきた痩せたおじいちゃんがいるけど、なかなかよ。

ベッドのサイドにある落下防止の柵があるでしょう。あれを抜いて、投げつけるのよ。どこにそんな力が残っているのかしら。だから、ベッドから柵を抜いたわよ。

それに、『お口磨きしますよ、はーい、じゃあ、これにペーしてください。』ってうがいしたものを容器に吐き出せるよう差し出したら、わざとプーッてナースの足に吹きかけるんです。

この前なんか、喉がタンで詰まっているので、吸引していたら、ナースの指を噛んできて、危うくよけたけどゴム手袋を噛んだのよ。

『ね、離してください。○○さん、噛まないでください。』って頼んだんだけど、しっかり噛んで離さないんです。

ゴムがピーって伸びて、患者さんの顔にバチンと当たらないよう、気を使いましたよ。」

うーむ、なかなかのおじいちゃんです。

90近くになって、ねじれ者というか、ワルというか・・・。

・・・犬のほうが、やっぱりだいぶ、可愛いかも。
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青春時代が夢なんて

「先生、実はこのたび、担当が替わることになりました。今月までは私が参りますが、来月から彼がまわるようになりますので、よろしくお願いします。」

「おや、そうなんですか! それは寂しい。ああそうか、ムッシュはいよいよ、営業部長になって、会社から陣頭指揮ですか!?」

昼休み、若いお薬やさんが来られた時、そう言われたので、ジョークで返した。

「ハハハ・・・、いえいえ、実は私、仕事を変わることになりまして。」

「え!? 何ですって、仕事を変わるんですか? 」

「はい、全然別の仕事に。」

「別の仕事、さては、どこかにヘッドハンティングされましたか?」

「いやあ、それが・・・。実は去年の暮れから考えていて、家族会議をしながらだいぶ話し合ったんですが、

長崎に行って、しばらく修行をして、お店を持とうと思っています。え? はあ・・・、焼き鳥屋なんですが。」

(うっ・・・・)

私はびっくりして、一瞬言葉が出なかった。

いつも背広を着て、ネクタイを締めて営業にまわるムッシュが、そんなことを思案していたとは・・・。

「長崎で、修行ですか・・・?」

「はい、実は僕が学生時代、そこで四年間バイトをしたもので、店の人を良く知っていて、福岡にも知り合いが店を出しているんです。」

「へーえ、そうなんですか。」

ムッシュの腹は決まっているらしい。
地元の大きな会社で、安定した道を進むより

何らかの理由で、まったく新しい歩みに、踏み出そうと決心したようだ。

「頑張ってくださいね。お店を出したら、連絡くださいよ。」

「はい、その時はまた、連絡いたしますので。」

・・・・・・・

人生とは不思議なものです。

学生時代に、何気なくバイトをしたこと、それだけで自分の人生に何かを刷り込んでいるのでした。

十年後、二十年後の自分を変えるのです。

いや、バイトに限らず、若い時の経験の一つ一つが、何かを自分に無意識のうちに刷り込んでいるのでしょう。

今日もそんな一日を、生きているのですね。
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先祖にプレッシャーなし

ある日、便秘症の猫のトムを連れて、マドモアゼルTがお出でになりました。

トム君は自力でなかなか便が出ないので、月に二回ほど排便処置をしています。

その処置中のこと、マドモアゼルが話してくださいました。

「先生、有名人の子孫の会があるんですが、ご存知ですか?先祖に有名な人がいれば、だれでも加われるサークルだそうです。

先日、上京した時、たまたまそれに参加しているという人に聞いたんですが、勝海舟の子孫という方がおられるんです。

勝海舟って、日本の歴史の運命が決まるときに大事な役割を果たした巨人でしょう。
だけどその方は、大抵小さくなって、隅っこにいるのが好きなんだそうです。

それから、近藤勇の子孫という方も、おられるそうですが、すごくおとなしくて、気も弱いんだそうです。

徳川の子孫の方もおられますが、
「もうちょっと前に生まれたかったなあ。幕末のころはまずいけど、それよりもう少し前が良かったかなあ・・・」

なんて、話してたとか・・・。



あの・・・又聞きですからね、

真偽のほどは定かではありませんよ。

御笑聞ください。
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袋に入れよう

お茶の時間です。
わらび餅を半分に切りながら、カメ子が話し始めました。

「午前中ですね、ムッシュKが来られたでしょう。あの時間、ちょうど別の患者さんも何組かも続けて来られてて、ちょっとあわただしかったんですよ。

それで私は、ムッシュのフィラリアの薬を用意しながら、

(そうだ、いつもムッシュは、『何か袋をください。』とおっしゃるから、今日は前もって袋に入れておこう。)

と、思ったんです。

それで、薬や診察券を袋に入れてから、ムッシュのお名前をお呼びしたんです。

『ムッシュ、お待たせしました。こちらが薬です。』

そしたら、差し出された袋を見て、ムッシュが何と言われたと思います。

『この袋を入れる袋を下さい』

と、言われちゃいました・・・。」
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