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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

介護1年8か月

 
「主人たら、ジェイが寝たっきりの頃は、ジェイに悪いからって、ずっと一人で散歩に行かなかったんですけどね。先日、久しぶりに一人で、思いでの散歩コースを歩いてきたそうです。」

「ハハハ、いえね、どうもジェイを置いて自分だけ散歩しにくかったからですね、ハハハ・・・。」

ムッシュTのご家族が、立ち寄ってくださいました。長い間寝たきりだった中型犬のジェイちゃんを介護していたのですが、この九月になって亡くなったのです。

「長い間」と一口で言いましたが、具体的には一年と八か月だそうです。まったく、脱帽です。わたしなんか、親が寝込んでも、一週間もお世話できないでしょう。

ジェイちゃんは成犬で13年前の1月25日、ふらりとT家に迷い込んできた雄犬です。

やんちゃというか、暴れん坊というか、一番大きな頃は25kgも体重があり、時にはお父さんを転ばして骨折させたり、咬みついて病院送りにしたこともあったのです。

それなのに動物好きのT家のご家族4人でいつも愛情いっぱい注いで世話をし、とうとう寝たっきりになっても、床ずれを包帯したり、寝返りをうたせたりと、替わらない愛情を注いだのでした。

「亡くなる二日前ですね、口を固く閉じて、もう食べないと言うんです。そう言っているように思えました。それでも、注射器で歯の隙間から流動食を流し込みましたが、ジェイが私を見てニコッと笑うんです。」

「お母さんが、そう思ってるだけよ!」

マドモアゼルが笑いながら、隣りからそう言い添えます。

「下の娘が、昔ジェイが来た時から飼育絵日記をつけていたんですよ。この前、それを引っ張り出してきて、みんなで『ああ、そんなこともあった、こんなこともあったね。』と、笑いましたよ。」

「それで、亡くなってから、最後にもう一度散歩コースを回ろうと言って、車に乗せて、よく言っていた散歩コースを、ゆっくり回りました。」

「ええっ! そんなことまで・・・、本当に最後まで特別待遇ですね。」

「ハハハ、はい、特別です。周りの人が聞いたら、『ここの家族は、おかしいんやないやろか?』と、思うかもしれないなとは思うんですが、でも、まあ、いいかと思って・・・。ハハハ・・・」

たしかに「おかしい、やりすぎ」のご家族ですが、きつそうでもなく、大変そうでもなく、こんなに楽しそうに介護してこられたのですから、素晴らしいと思いました。

もしかしたら、他にどんな困難が来ても、迎え撃つ秘訣を持っているのかもしれませんね。

それにしても、長きにわたり、お疲れ様でした。

「散歩コースにいつも仲のいいワンちゃんがいたけど、この前見たら犬小屋が片付けられていました。
もしかしたら、友達の犬が天国で、一緒に遊んでくれてるかもしれんね。」

「また、お母さんたら、死んだかどうかわからんのに・・・」

「ハハハ・・・、フフフ・・・」

十分すべきことをし尽したのでしょう。
ムッシュのご家族は、楽しそうに、帰って行かれました。

 


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