五十銭硬貨
「お父さん、あのね、こんなのが混じってた。」
八月の暑い、ある日のことです。
買い物から帰って来た娘が、私の目の前に小さめの硬貨を5枚、差し出しました。
「え? どうした?」
一見して一円玉より小さいのはすぐわかりました。色は五円玉のような黄銅色、穴は開いておらず、周縁にはギザギザがあります。
菊の文様と桜が六輪描かれ、真ん中に「五十銭」と右から左へ表記されています。
「ええっ! これは昔の五十銭硬貨みたいだよ。どうしたのこれ?」
「だから、今日買い物して、お釣りをもらったのを見たら、混じってたの。しかも、5個」
「はあー? そんなはずは・・・」
平成の世に、50銭硬貨が流通するはずない。けど、確かにお釣りに入っていたと言うのです。しかも、わからないのは、5枚。二枚で一円として渡すならまだわかるが、なぜ五枚なのか???
年号は昭和22年と23年。
終戦後も五十銭硬貨を鋳造していたようです。
「ふーん、」
しばし心は、昭和にタイムスリップ。
結局どこでお釣りにもらったかわからないままになりましたが、摩訶不思議な出来事でした。
それから数日後。
日曜日に教会に行くと、会計さんが私を呼び止めました。
「もしもし、献金袋にこんなのが一枚混じってたんだけど、どうしようもないから、あなたにあげるよ。」
差し出された物は、一枚の五十銭玉でした。
(ははあ、さてはこれが残りの一枚だな。娘の財布の隅に残ってたんだろう。それを献金の時、間違えて子供にでも渡したんだろう。これで偶数、勘定は合ってたんだ。)
私は、一円と交換で、その五十銭硬貨を受け取ったのでした。
かくして私の手元には今、終戦直後の昭和を覚えさせてくれる五十銭玉が六枚、並べられています。