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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

翼の折れたカラス

「あっ、カラスだ! おばあちゃん、あんなとこにカラスがおるよ!」

 「おやまあ、ほんとね。どうしたのかしら?」

「ねえ、おばあちゃん、こっちに来るよ」

「あれ、あれ、ほんとに。」

「わ!来た来た!階段上がって来た。ほら、庭に入って来たよ!」

「あれまあ、どうしよう。おや?羽がおかしいわね。」

「うん、羽が曲がってる。」

ある日のことです。マダムの敷地に、飛べないカラスがぴょんこぴょんこしながら、侵入してきました。それは数日前から時折道路で見かけていたカラスでした。

「ねえ、おばあちゃん、怪我をしているのかもしれないよ。病院に連れて行こうか?」

「そうね、連れて行ってあげようかね。」

こうして小学生のお孫さんと、おばあちゃんの、なんと二人で大捕り物です。

「ガアーガアー、アホーアホー・・・」

ばたばたと逃げ回る野生のカラスを捕まえると、ボール箱に入れたのでした。

「お母さん、病院に連れて行ってよ。」

そんなことで、子どもとお姑さんに頼まれて、マダムが連れてきたのでした。

「よく、捕まえられましたね。これはハシブトガラスみたいですね。くちばしが結構強いんですけど、怪我をしませんでしたか?」

私は皮手袋をはめながら二人の勇気に感心し、そして箱からカラスを取り出した。

なるほど、右の翼がねじれている。

「おや、マダム、確かに骨折している感じですが、でもこれは古傷ですよ、曲がったままがっちり固まったみたいです。全然ぶらぶらしていません。もう一か月くらい経つかもしれませんね。」

たいしたものです。どうやらカラスくんは、飛べなくなっても地上を歩き回りながら、生き延びていたようです。

「どうしたらいいでしょうか?」

「飛べるようにするのは、難しいので、安全に寝れる場所を作り、餌だけ与えたら、もしかしたら放し飼いのようにして飼養できるかもしれませんけど・・・。」

箱に戻したカラスくんは、箱の中の熟し柿をついばんでいる。人への警戒心は、強くないようです。

 「わかりました。工夫してみます。」

マダムはにっこりそう言うと、箱を抱えて帰って行かれた。

それにしても世の中には、優しい子供やおばあちゃんやマダムが、おられるものですね。

翼の折れたカラスにどんな悲劇があったかはわかりませんが、自由に羽ばたく大空を失っても、生きていく気力は少しも失っていないのには、見習いたいものです。

 


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父親を送って

 

「こんにちわ、すみません、先週はお伺いできなくて・・・」

「あら、こんにちわ!」

台風がまた九州に近づいているある朝でした。営業のムッシュHがおいでになりました。

ムッシュはまだ30くらいでしょうか、はつらつとした青年です。

「実は父が亡くなったもので、先週、忌引きを戴いていましたものですから・・・。」

「えっ、そうだったのですか・・・、それは・・・」

彼が若いので、きっとお父さんも若かったのではないかと思うと、それだけでも大変気の毒に思いました。

「七月に胆管癌が見つかって、大学病院で検査を受けたのですが、もう転移していると言われ、それから早かったですね。

実は祖母も6月に同じ病気で亡くなったばかりなんです。
最後はホスピスに入院して良い看護を受けましたが、そういうわけで、今度はまた父が、こんなことになって。

家族で相談して、違う病院ですがやっぱりホスピス体制のある病院に入って、そこで良くしてもらいました。

そこの先生から、『何でも好きなものを食べていいですよ。お酒やたばこもいいですよ。』と言われて、父はもう治らないんだなと、感じたようです。

私の息子が来年入学なので、『じゃあ、ランドセルを買いに行こう』と、父が言ってくれて、車いすで出かけました。それが5日の土曜でしたが、まもなく容態が悪くなって、11日に亡くなったんです。

え?私ですか? 一人っ子なので、後の手続きがたくさんあって・・・・

ランドセルの色ですか?フフフ・・・、今はやりの綺麗な茶色を選んでましたよ。」

親が亡くなる時に、兄弟がたくさんいると、少しは心強いが、一人っ子はずしりと悲しみがかぶさって来るのではないだろうかと、案じました。

「58歳は、若いですね。早すぎますね。
でも、ムッシュ、お父さんと同じ会社に入社して、鹿児島と福岡と勤務地は離れていましたが、同じ社員として働いたということは、それだけで、お父さんは喜ばれたんじゃないですか!?
きっと、嬉しかったと思いますよ・・・。」

「そうでしょうか・・・。喜んでくれていたでしょうかね・・・」

そんなお話をして、ほどなくムッシュは出て行かれた。

彼の後姿を見送りながら思いました。

お父さんを亡くすと、人生はさびしいものです。
自分を評価して、ほめてくれる人が、いなくなるから。

子どもは、幾つになっても、父親から、褒めてもらいたいものなのです。

父親から褒めてもらうと、男の子というものは、とても嬉しいものですから・・・。

 


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一緒にリンゴを食べたかった

「主人が、どうしてもポポちゃんにリンゴをやりたいみたいだから、やっぱりリンゴのアレルギー検査をしてもらおうかしら。」

マダムOが、シーズーのポポちゃんを連れて来られました。

ポポちゃんは、一歳のころからアレルギーが出始め、体の赤みや湿疹で苦労していました。

三歳になったころ、あまりにも状況がひどくなったので、イムノグロブリンEやリンパ球刺激試験などの血液検査を行って、食べられるものと食べないほうが良いものを、ある程度詳しく調べました。

さらにです。アレルギー用インターフェロン注射を行い、高価な免疫抑制剤も飲み、ずいぶん良くなってきました。

こうした努力の結果、ほぼ、90%コントロールできたと言えるくらいに、きれいな自然な皮膚が、回復してきたのです。

だけど、マダムの家ではもう一つだけ、問題がありました。
それは、ご主人がリンゴ好きで、よく召し上がることです。
そのために、どうせならご主人はぜひポポちゃんと一緒に、美味しくリンゴを食べたいのでした。

そばに寝ているポポちゃんをしり目に一人でリンゴを齧るより、ポポちゃんと一緒に分け合いたいのでした。

「すみません、先生。やっぱり、リンゴのアレルギー検査もして下さい。」

マダムの要望を受け、私たちはもう一度ポポちゃんから採血をし、イムノグロブリン検査に送りました。(リンパ球刺激試験は、リンゴについては検査が出来ないとのことでした。)

その結果、リンゴは大丈夫そうだと言う判定をもらいます。

マダムは喜んで、それを御主人に告げ、その夜からポポちゃんは、お父さんと一緒にリンゴを食べ始めたのです。

現在のところ、リンゴで赤みや痒みは生じてないようです。


「リンゴを、一緒に食べたい!」

このようなささやかな願いは、人生においてしばしば私たちの心を占める小さいけれども大切な願いでもあります。

「そんなこと、どっちでもいいじゃない!」

そう言って、つい聞き流してしまったら、その人にとっては大事なことを、わかってあげられないままになるかもしれません。

「あなたと、たまには夕方、散歩がしたかったのに・・・。」

「一度くらい君と一緒に、プロレスを見に行きたかったな!」

なんてのも、リンゴのように、心の中で、

ありでしょうか・・・?

 


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マツタケご飯事件

「こんにちわ、お昼をお持ちしました!」

元気の良い声で、お弁当屋さんが入ってこられました。この頃は、お昼ごはんは、たいてい届けてもらっています。

「あの、今日は百円増しでマツタケご飯がつけられますが、どういたしましょう!?」

「え? マツタケご飯! うーむ、どうしよう。・・・そうですねえ・・・じゃあ、おねがいします。」

予定外なので要らないとも思いましたが、秋の風物です。これを逃せば今年もマツタケのマの字も口に入らないでしょう。
ちょっと迷いましたが、私の分と、ぺ子の分、二人分のご飯をマツタケご飯に替えてもらいました。

さて、その後は午前中の診療を続け、重症の猫が来て走り回ったり、中学生の職場体験の指導をしたり、あっという間に時間は過ぎて、気がつくと一時近くになりました。

(おお、こんな時間か! 休憩、お昼だ!)

私はマツタケご飯を二つ、おかずも二つ、容器を四段に重ねて両手で持ちます。そしてそれを運んでいた時です。

中庭の犬の散歩場でドアを開けようと片手になった瞬間

上二つのマツタケご飯が、スルスルと容器をすべり、あっと思った時には、もう地面に落ちて、中がまき散らされました。

(うわあ、しまった!)

顔がひきつります。昼ごはんが! 昼ご飯が!・・・・

しかし、もう一つのマツタケご飯は、うまくひっくり返ったままボトリと着地、蓋もはずれず中身は無事でした。

(あちゃあ、しくじった!)という思いと、(ああ、一つは無事で良かった)と思う、複雑な感情を交錯させながら、私は、こぼれたマツタケご飯を手でかき集め、容器に戻します。

どうしよう、どうしよう・・・

どうしようもありません。
食事を、減らすだけです。

その日は、アデノイドの手術をすると言うので、六歳の孫が入院のため病院に出かけたのですが、

夕方まで私の心を騒がせたのは、落としたマツタケご飯のほうでした。

 


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バナナ四分の一切れ

「バナナなら、Sスーパーより、Hスーパーの方が美味しいですよ。」

 お茶の時間です。マル子が粉末スープを溶かしてスプーンでかき混ぜながら、そう言いました。

「ふーん、美味しいなら、台湾バナナかな?」

そうです。年配の人間は、みんな台湾バナナが上等だと、刷り込まれているのです。

子どもの頃食ったバナナは、どうしてあんなに美味しかったのでしょう。

しかしマル子には、台湾のブランドは通用しない。

「いいえ、Hスーパーは、種類が多くて、ハロチャンスイートとか、極撰バナナとか、5種類くらいの置いているんです。」

 「ふーん、五種類ねえ・・・。そんなにいろんな種類がいるもんかねえ・・・」

「そんなに高くないし、・・・うちは、五本160円くらいのを、買っています。それを家族みんなで食べます。」

「あれ、五本じゃ、人数と合わないじゃない?」

「みんな食べるとは限らないし、毎朝一本をとって、それを四等分に切って、置いとくんです。それが朝ごはんです。五日分です。」

「ええっ? 一本の四分の一? たったそれだけ?」

「でもお父さんは、二切れ食べます。他に、キウイとか、リンゴとかも切って置いとくから・・・」

「果物ばかりだね。それじゃあ、チンパンジーの食事と一緒だぞ。ハハハ・・・」

「いえ、チンパンジーなら、もっといろんな種類の果物が用意されますが、うちはそんなにないから、フフフ・・・」

もしマル子の家族に聞かれたら、叱られそうな話だったが、それにしても、変な朝食である。

でも果物ばっかりというのも、オシャレな朝ごはんかもしれない。

それに対して、我が家は食パンにプレーンヨーグルトとブロッコリーが多いから、・・・ゾウガメの食事に近いかしら?

 


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