心が通じた!
「ええっ! あの子が慣れたんですか!」
マダムの話しを聞いて、私たちはびっくりしました。
マダムはマンションにお住まいですが、最近庭先にやってくるようになった野良猫兄弟に同情していました。そしてひそかに餌を与えていました。
「先生、私はできれば家に入れて、飼ってあげたいんですけどね。」
「マダム、根っからの野良育ちでしょ。それは無理ですよ。野良猫っていうのは、街に住むヤマネコみたいなものなんです。餌をもらいに近づくことはあっても、決して飼い猫のようになつくことはありませんよ。」
「やっぱり、そうなんですかね・・・。」
がっかりした顔でマダムは帰って行かれました。しばらく前から、餌だけもらいに来る兄弟猫、「お兄ちゃんと弟君」猫を、なんとか世話してあげたいと願っていたからです。
ところがそれから数か月後でした。
「先生、トラップを使って、お兄ちゃん猫だけ捕まえたんです。そして家に入れてあげたんですが、最初は大変でした。びっくりして、警戒して、大騒動でした。
でも、だんだん慣れてきたんです。少しづつ触れるようになり、そして最後はついに膝に乗るようになりました。体を撫でてと、自分で甘えて来ます。」
「えー、本当ですか!? 野良猫がねえ・・・、そんなに慣れるなんてねえ。」
私は聞いて、感心しました。
生まれた時から野良育ちでも、やっぱり愛情を注げば、相手に通じることもあるんですね。
「絶対に無理!」とは、決まってないのでした。
暗い夕闇の中に現れる野良猫を待ち続ける熱心さと、引っ掻かれても咬みつかれても惜しみなく差し伸ばす愛情の手が、野良猫の人間観を変えることもあったのでした。
「女房はね、今も弟君猫をなんとか捕まえて、家に入れてあげたいと、トラップを用意してねらっているんだけどね。」
猫の心臓の薬を買いに来られた時、ご主人が、笑いながらそうおっしゃっていました。