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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

島原の子犬

「あなた、きれいな所ね。静かで、自然が豊かで、それに古い城下町の面影があって・・・すてきね。」

 「うん、良い所だね。潮風は気持ちいいし、空は青いし・・・、こんなにきれいな湧水が、当然のようにしてたっぷり町の中を流れているのがいいね。」

それは今から14年ほど前、マダムEがご主人と島原に旅行に行かれた時のことだそうです。白い綺麗なお城や保存された武家屋敷の小道を散策し、そして土に埋もれた火砕流の爪痕残る遺構を見て回った後でした。

「クーン、クーン・・・」

駐車場に戻ろうとした時、ふと見ると一匹の白い子犬が、お腹を空かせているのでしょうかうつろな表情で震えていました。

「まあ、可愛い・・・。 君、どうしたの、こんな所に一人で。・・・お母さんはいないの?」

白い子犬は、優しい言葉をかけてくれたマダムのその手をペロペロと舐め、しっぽを振ります。

「あなた、どうしたのかしらね。痩せている子ね。でも、ほら、こんなになついてる。」

「うん、捨て犬かなあ・・・。汚れているし、飼われている感じはしないね。」

「ねえ、あなた。連れて帰りましょうよ。可哀想だわ・・・このまま置いては行けないわ。」

「えっ、連れて帰る!? うーん、そうかい、・・・じゃ、そうしようか。」

こうしてリリーちゃんは車に乗り、福岡のマダムの家に迎えられたそうです。当院でのベラちゃんの初診は2001.11.30で、もう一歳を過ぎた頃でした。

「先生、でもリリーを拾ったその年に、主人が亡くなったんです。だから、この子は今でも大切な思い出の犬なんです。」

マダムはそう話してくださいました。

けれど13歳を過ぎたこの冬、リリーちゃんは衰弱と認知症が進み、いつの間にか家からいなくなりました。マダムはあちこちに聞いて探しましたが、残念ながら数日後、近所で冷たくなって発見されたそうです。

寂しい最期になりましたが、でもマダムの辛い時期をしっかりと支え、一緒に生きてくれたリリーちゃんに、ありがとう、ありがとうと、何度も言ったことでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 


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口が痺れていても

お茶の時間です。カメ子がこう話し始めました。

「先生、私、昨日歯医者に行ってきました。三時半ごろ麻酔をうって処置したので、ドクターから『夜の七時くらいまでは物を食べないでくださいって言われたんです。それで私、食事をしないでずっと待っていたんですけど、口のしびれは六時になっても全然変わらないんです。

そろそろお腹も空いてきたし、(あ、この調子じゃあ、七時になってもたいして変わらないわね。)と思って、もう食べようと思って食べ始めたら、なるほどやっぱり口の端からポロポロこぼしちゃうんです。

それでこうやって、口の端を指で押さえながら、食事しましたよ。ほら、ここを塞いで、首を傾けながら、エヘヘヘヘ・・・・」

「まったく、カメ子のやることと言ったら・・・。先生のいうことを聞かずに、困った患者さんだね。」

「あ、それでですね、私の隣りで治療を受けてた患者さんの会話が聞こえたんですけど、ドクターが『うーん、これは歯根がボロボロですね。〇〇さん、もう、抜くしかないですねえ…』と事務的に言ったら、

『えっ!? 先生、私はいつも歯の手入れにこちらに通っていたのに、どうしてそんなことになるのですか? なぜもっと早く分からなかったんですか?そんなに悪いんですか?』と、女性の方が、問い詰めるように聞いたんですよ。

そしたらドクターは急に言葉を丁寧に話し始めて、『ああ・・・、あの、それはですね、・・・こういった病変は、患者さん本人が自覚症状を言ってくださって、右のこのあたりが痛いとか、左のここが疼くとか、そう言われてからそこのレントゲンを撮って初めてわかるんですよ。外からただ見てもわからないからですね・・・。』って一生懸命説明されていました。

私は隣りに座っていて、(ああ、歯医者さんも大変だな)って、思いました。」

「うーむ・・、そうだね。なるほど、歯医者さんも、苦労があるね。やっぱり気を遣う職業なんだね。どんな仕事も、殿様商売じゃやれないんだよね。」

カメ子の話しを聞きながら、改めて私はそう思ったのでした。

それにしてもカメ子ときたら、口が痺れているのに、もう少し食べるのを我慢できるようにはならないのかしら・・・?

 


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びしょ濡れの天使

動物を飼い始めるきっかけは、必ずしも同じではありません。誰もが、ペットショップに出かけるわけではないのです。

猫のストーム君を連れて来たとき、 マダムKが話してくださいました。

 「この猫を飼うようになったのは、四年前なのです。ちょうどその年、夫が癌で入院治療していました。二人の子供と病院に通い続けましたが、食事を段々受け付けなくなり、最後は昏睡状態になり、チューブに繋がれている毎日でした。そんな夫を、子ども達と一緒に見守る日々でした。

 やがて夫が亡くなりました。四十九日も過ぎ、自分がしっかりしなければと思いつつ家に帰っていた時です。雨が降り、風も激しかったある午後、駐車場を通りかかった時にふらふらと一匹の子猫が現れたのです。

ミャーミャーと私たちに助けを求めるように近づいてきたのです。

『うちにはもう猫がいるから、飼ってあげられないよ。』

けれど泥まみれで可哀想だから、今夜だけは保護してあげようと連れて帰ったのです。温かいお湯で洗ってあげるとガリガリに痩せているけどあまりの可愛さと人懐っこさに、そして夫の代わりに私たちの所にやって来たように思えて、結局手放すことが出来ず、今日まで至りました。」

 こうしてマダムの家で暮らせるようになった、幸運なストーム君でしたが、昨年夏から腎臓を悪くし、入院や治療が行われました。

しばらく元気を取り戻していましたが、年末ぐらいから再び容態が思わしくなくなり、正月の明けるころ、亡くなったのでした。

 「点滴に繋がれ治療を受けるストームの姿に、子ども達は父親の闘病を思い出したかもしれません。辛い記憶を呼び起こしてしまったかもしれませんが、命の大切さ、優しさを身を持って教えてくれたのだと思います。どんな小さな生き物にも命がある。そして頑張って生きている。子ども達は、それを今後忘れることなく頑張ってくれると思います。」

マダムから、そういうお手紙をいただきました。

一番つらい時に忽然と現れて、四年間楽しい思い出を残してくれて、また風のように去って行ったストーム君。

そうです。

動物は、飼おうと思って飼うとは限らないのです。

「あなたたちと、暮らしてあげよう!」と言って、ある日突然天使が現れ、

そして「もう、いいだろう!?」と言って、風のように去って行く。

優しい動物たちとは、そういう出会いも多いのかもしれません。

 

 


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眼科検査

皆さま、明けましておめでとうございます。
福岡は珍しく晴れ間も多く、比較的暖かい正月でした。

どうぞ今年も、皆さまにとって良い一年となりますように。

さて昨年の暮れのことです。
処置室で猫の世話をしていると、カメ子が言いました。

「先生、わたし昨日眼科の定期検査に行ったんです。」

「うん、うん、」

「小さな字や縦と横の線を見せられたりしたんです。
(何の検査だろう。きっと老眼の検査もあるんだろうな。でも、どれもよく判別できるし、よく見える。良かった。)
 そう思って自信満々で先生に『どうでした?』って聞いたんです。

そうしたら『はい、少し老眼が出てますね。』って言われて、

わたし 思いがけない宣告に、(うっ!)となって一言も返せなくて、顔つきも固まって正直、真から打ちのめされたんです。

そしたら先生がそれに気がついて、あわてて言葉を繕ってくれて、フォローしようとしてくれたんですが、もうガビーンが顔に張り付いているので、向こうの先生はあたふたしてました。」

「ふーん、いよいよ、カメ子にも来るべきものが来たか。それじゃあ、昨日は飲まずにはおれなかっただろ。」

「勿論、フフフ・・・・」

しかし皆さん、有名な言葉にあるように、

「外なる人は滅びても、内なる人は日々新たなり。」

で、今年も歩みたいものですね。

 


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