SSブログ

聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

びしょ濡れの天使

動物を飼い始めるきっかけは、必ずしも同じではありません。誰もが、ペットショップに出かけるわけではないのです。

猫のストーム君を連れて来たとき、 マダムKが話してくださいました。

 「この猫を飼うようになったのは、四年前なのです。ちょうどその年、夫が癌で入院治療していました。二人の子供と病院に通い続けましたが、食事を段々受け付けなくなり、最後は昏睡状態になり、チューブに繋がれている毎日でした。そんな夫を、子ども達と一緒に見守る日々でした。

 やがて夫が亡くなりました。四十九日も過ぎ、自分がしっかりしなければと思いつつ家に帰っていた時です。雨が降り、風も激しかったある午後、駐車場を通りかかった時にふらふらと一匹の子猫が現れたのです。

ミャーミャーと私たちに助けを求めるように近づいてきたのです。

『うちにはもう猫がいるから、飼ってあげられないよ。』

けれど泥まみれで可哀想だから、今夜だけは保護してあげようと連れて帰ったのです。温かいお湯で洗ってあげるとガリガリに痩せているけどあまりの可愛さと人懐っこさに、そして夫の代わりに私たちの所にやって来たように思えて、結局手放すことが出来ず、今日まで至りました。」

 こうしてマダムの家で暮らせるようになった、幸運なストーム君でしたが、昨年夏から腎臓を悪くし、入院や治療が行われました。

しばらく元気を取り戻していましたが、年末ぐらいから再び容態が思わしくなくなり、正月の明けるころ、亡くなったのでした。

 「点滴に繋がれ治療を受けるストームの姿に、子ども達は父親の闘病を思い出したかもしれません。辛い記憶を呼び起こしてしまったかもしれませんが、命の大切さ、優しさを身を持って教えてくれたのだと思います。どんな小さな生き物にも命がある。そして頑張って生きている。子ども達は、それを今後忘れることなく頑張ってくれると思います。」

マダムから、そういうお手紙をいただきました。

一番つらい時に忽然と現れて、四年間楽しい思い出を残してくれて、また風のように去って行ったストーム君。

そうです。

動物は、飼おうと思って飼うとは限らないのです。

「あなたたちと、暮らしてあげよう!」と言って、ある日突然天使が現れ、

そして「もう、いいだろう!?」と言って、風のように去って行く。

優しい動物たちとは、そういう出会いも多いのかもしれません。

 

 


トップへ戻る
nice!(1)  トラックバック(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。