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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

中洲のイタチ

「あの、イタチなんですけど、診てもらえますか?」

少し冷え込んできた四月のある金曜日の夜です。マドモアゼルが段ボールを抱えて来られました。

「この中に入っているんですけど、弱っていて・・・」

イタチのすばしっこさを知っている私たちは、箱を開ける前にネットで包み、逃走の備えをして恐る恐る蓋を開け、中を覗いた。暗くてよく見えない。ゆっくり箱を傾け、イタチをネットへ滑り落とす。

スルスルと出てきた茶色の小さな体。鼻の頭が白くて、貧血している。上半身は動かすが、後肢は力が入らない様子でした。

しかし、相手はイタチです。油断しててもし逃げ出されたら大変なので、あくまでも慎重に観察します。

「保護したのは中洲です。はい、道路上で、足を引きずっていたのです。」

「よく、捕まえられましたね。」

「いえ、動けなくなっているのを店長が見つけて、タオルで包んで抑えたんです。」

レントゲンをとるため抱いて移動させようとしたとき、細い鋭い牙をザクリと革手袋に食い込ませてきた。力は弱いが、牙が細いので、針のように深く刺さって来る。

「危ない、危ない」

ネットに入っているからと言って、甘く見なくて良かった。私はあわてて革手袋から手を外し、ネットのままぶら下げてレントゲン室へ連れて行く。

きちんとポジションをとれないのでいい撮影はできなかったが、どうやら足には骨折はなさそう。しかし脊柱に骨折を見つける。

「うーん・・・・・」

お腹は真っ白に写り、腹水の存在あるいは腹部の外傷が疑われた。瀕死の重傷のようです。野生動物で、ケアをしてあげにくいので、回復は難しいと予想されました。

「厳しいですね。本人が治療を受け付けないでしょうから、暖かくして、栄養をとれるよう世話をして、あとは生命力に任せるしかないでしょうか・・・」

二週間有効の抗生物質を注射し、ビタミン剤だけお渡しした。

それにしても、優しい方々です。

道路で倒れてるイタチを捕まえた店長、

「おい、病院に連れて行ってやろう、誰か病院知らないか?」

「じゃあ、調べてみます、私が連れて行きます。」

「うん、じゃあ、頼むよ。僕は店を開ける準備があるから。」

こうして、遠い病院まで連れて来るなんて。

私は中洲の街に暮らす若い方々の、心優しい行動に、感銘を受けずにはおれませんでした。

 


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乙女の牛丼

今月から消費税が8%に上がった。ニュースによれば、牛丼屋さんの対応はこれを機に値上げする店と、なんと値下げする店とに分かれていると伝えていた。

お腹が空いてくる夜も八時ごろ、マル子は掃除をし、病院を閉める準備をしていた。

 「私ですね、一度だけ牛丼屋さんに入ったことがあるんですよ。それも一人で。」

「おっ! マル子は行ったことあるのか。フムフム、 話によれば、女性は一人だとラーメン屋さんは入りづらいらしいけど、牛丼屋はどうだった?」

「はい、やっぱりちょっと、入りにくいですね。でもだいぶ前です、行ったのは。もっと若かった時ですが。ある日、どうしてもいっぺん、牛丼を食べてみたくなって、一人で行ったんですよ。

ためらいながらお店に入って、どうしたらいいのかわからなくて、ドギマギしたんですが、他のお客さんを見ていたら、何でもすごく速かったんです。

注文した人たちは、漬物とか味噌汁とか、いろいろ頼んでいて、ガッツリ食べる人が多いんですけど、直ぐ出来て来るんです。ご飯をつぐのも早くて、とにかく何でもすごく早いんです。

カウンターも独特で真ん中が開いていて、(へー、能率がいいのか)と、思いながら、キョロキョロ。

そして、食べて帰るのも早いんです。

まわりの勢いに圧倒され、私、緊張しながら並の牛丼一杯だけ食べました。

どんあ味だったか良く覚えてないけど、でも今なら周囲を気にせず、牛丼だけ見つめて食べれると思いますよ。フフフ・・」

なるほど、男はデパートの下着売り場の前を通る時、ちょっとドキドキするけど、若い女性は牛丼屋のドアを開ける時、ちょっと勇気が要るようです。聞いて見なければ分からないものです。

マルコの一回きりの牛丼屋探検は、こうして今も思い出のアルバムに沈んでいるようです。

 

 


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夜中の帝王切開

「トルルルルル・・・」

遅くなり、ようやく寝入った夜中の三時頃、自宅の電話がなります。最近親戚の方が亡くなったばかりなので、また何事か!?と妻が電話に出ると、お世話になっている知り合いの先生からでした。

「ゴールデンの出産で、胎仔の前足が頭に引っかかったまま、出て来なくなった。」

「すぐにお出で頂けますか?」

二十分ほど待つと、犬も先生御夫妻もやや疲労した顔で、到着。すでに二頭だけ産み落とした母犬の後躯は、胎盤で緑色に染まっています。

手袋をして産道に手を差し入れて見ると、うん?奥に胎仔の足や頭をやっと触るくらいで、骨盤をまだ通過していません。かなり奥です。以前、別のワンちゃんで、死産で引っかかった時は、鉗子で切り刻みながら取り出しました。今回も、おそらく胎仔はすでに亡くなっているでしょう。しかし、その奥にはまだ生きている胎仔が残っています。

「どうしましょう・・・」

相談の結果、今回は帝王切開となりました。

スタッフの帰った深夜の手術は、準備、段取りを一人でしないといけないので大変です。電話で呼び出せば来てくれるかもしれませんが、そんなことをするとあとで「美味い物食いに連れて行け」と、うるさいかもしれませんので、その日は電話しませんでした。

準備はできるだけ手際よくなるように進めますが、それでも大きなゴールデンに麻酔に入ってもらうまで、御夫妻の協力を戴きながら一苦労です。しかし、今回は、それ以上に大変なことが待っていました。

というのは、実は大きなお腹に、まだ胎仔が9頭も残っていたのです。子宮でふくれ上がったお腹はメスで切開が始まると、次々に出て来るわ出て来るわ、てんやわんやしながら8頭を取り出し、胎膜を破り、羊水を吐かせ、呼吸促進剤を打ち、タオルマッサージし「息をしろ!、息をしろ!」・・・と大忙し。

最後に産道に引っかかっていた胎仔を取り出してみると、腕が頭にかかったまま硬直し亡くなっていました。可哀想に全部で11頭お腹にいたわけですが、三番目に出て来ようとした女の子だけが難産になり死んだのでした。

ただ、生まれたばかりの新生児たちは、もうお腹を空かせたようにひしめき合ってキュウキュウ鳴いています。 福岡の夜間救急動物病院なら、こんな風景はきっとしょっちゅうの事なのでしょう。

全部終わって窓の外を見るともうすっかり明るく、雀もチュンチュン鳴いています。少し眠たさもありましたが、生存を心配した胎仔がこんなにたくさん助かったことが、疲れを吹き飛ばしてくれました。

 

 


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愛犬の弔問に二十人

「サンタがお世話になりました! ありがとうございました。」

マダムUがおいでになりました。ひと月ほど前に14歳で亡くなった中型犬のサンタ君のことで寄ってくださったのです。サンタ君は子犬の頃マダムが動物管理センターから引き取りました。マダムはその頃、ある学校で食堂の調理に関わっておられました。学校の生徒さんたちにも、「サンタ、サンタ」と可愛がってもらいました。

それから14年です。一年ほど前に発作を起こし、心臓がかなり悪いことがわかり毎日薬を飲んでいました。それからも何度か倒れましたが、そのたびにニトロを飲ませて、なんとか回復していたのです。しかし、やっと暖かくなり始めた三月の上旬に、仕事から帰ったマダムを待っていたように、腕の中に倒れて息を引き取りました。

(何度も危ないところを助かったし、この二、三日は食欲も落ちていたし、覚悟をしていたから、仕方がないわ・・・)

マダムは十分世話が出来たことに、悔いはありませんでした。

ところが、それから意外なことが分かったのです。サンタ君が、思ってた以上に顔が広くて、たくさんの人に愛されていたということです。

「二十人くらいの人から、声をかけてもらったんですよ、『サンタ君、どうしたんですか?』『サンタ君、最近いないですね』って。本当にたくさんの人が、私の知らないところで『サンタ、サンタ』って、可愛がってくれてたみたいで、びっくりしました。・・・」

マダムはご自分でも驚いたのでしょう。自分の所の犬がこんなにいろんな人につながりを持っていたなんて。

「昔ですね、近所に、不登校になっていた小学校の一年生がいたんです。その子がサンタと仲良くなって、よく遊んでいたんです。サンタと遊びながら、だんだんまた学校に行けるようになったんです。今、その方は大工さんになって働いているんですよ。

彼が仕事から帰った時、『サンタ君が死んだらしいよ。』って母親から聞いたら、彼は涙ぐんでくれたそうです。」

マダムはそんな話をしてくださいました。

心臓病の老犬でも、生きている限り、地上でいろんな役割を果たしている。

改めてしみじみと、思わされました。

 

 


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