動物看護美容学校を卒業した新人のタマエが当院に就職して2ヶ月になる。本人は真剣な顔をして日々仕事に取り組んでいるが、周囲の者も真剣に見守っている。

「これこれをお願いするね。」

「はい、かしこまりました。」

本人はただちにどこかへ行くが、どの部屋で何を始めるのか、わかっているのか、わかってないのか、一向に戻って来ず心配になることがよくあった。

「わからない時は、必ず聞いてね。」

「はい、かしこまりました。」

そう言って、今日も病院中を走り回っている。
何を始めるかわからないそんなタマエに、最近「暴走列車」というあだ名も与えられた。

そんなタマエを見守りながら、ある時わたしはマル子と話していた。

「ねえ、タマエは黙々と仕事している時が一番怖いね。迷うことなく取りかかるからね。
 
『えっ! この犬は、丸刈りじゃなかったんですか?』

 なんて叫び声を後から聞くことだけは、勘弁して欲しいよ。

どんな仕事でも、これでいいのか、似たものがないのか、勘違いがないのか、確認作業がいるよね。
うむ・・・、考えてみれば、人生には迷うとか、ためらうって事は、案外大事なのかもしれないね。」

「迷う事が大事・・・ですか?」

「うん、人が迷うって事は、立ち止まって考えて、過ちを防ぐ為には大切なことなのかもしれないね。
迷う事も大事だって、この年になってようやくわかったよ。」

「人生、まだまだ勉強ですね。」

「ハハハ・・・、そうだね。」

そんな二人の話をよそに、今日も元気なタマエ列車が走る。
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