雪の夜
「お久し振りです、・・・ところで、聞きたいのだけど、どこかに里親探しの子犬はいないかしら? 」
ある日、三十年来の友人から、久し振りにメールが入った。
元出版関係に勤め、昔は地球の裏側まで駆け回っていた女性です。今は故郷に帰り、フリーで続けている綺麗な方です。
それから子犬を気がけているが、あまり大きくならず、気立てもいい雌を中心に探すと、すぐには見つからない。
「先生、市の動物管理センターに子犬が掲載されていますよ!」
カメ子がホームページを見て私に教えてくれた。
「ふーん、どれどれ?・・・・」
里親探しや譲渡希望のページを開いて犬たちの写真を一つ一つ眺めていく。大部分は年齢不明の中年や高齢の犬たちである。
「・・・・・・・・」
どの犬の写真も、見ていくうちに憐れに思えて同情をしてしまう。
(みんな無事行き先が見つかるといいけど。)
実際、愛護活動を熱心にされている方も多いのだろう。同じ連絡先で何件も犬を保護されている方が掲載している。
(丁度いい犬が、いるかなあ・・・)
一度飼い始めたら、十五年は一緒に暮らすのだから、生活に適した伴侶がいいし・・・。
「あ、先生、雪が結構降ってますよ!」
考えているうちに、いつのまにか雪が降り始めていた。
暗い空から絶え間なく落ちて来る綿雪がやがてボタン雪に代わり、夕暮れと共に駐車場に積もり始めた。
道行く車は、雪よ溶けよとばかりに、シャーシャーとタイヤを鳴らして走っていく。
しかしそれ以外の所はすでに雪景色に変わり始めた。家々の屋根が、庭木が、真っ白な帽子をかぶっていく。
雪が激しくなり、その夜はあまり患者さんも来ないまま仕事を終える。
電気を消し、通用口に出るとさらに雪が降り頻っている。
「先生、どうぞ!」
カメ子が愛用の傘を差し出してくれる。猫が描かれた上等の傘です。
「おっ、ありがとう。カメ子と相合傘は、初めてだね。」
「・・そ、そうですね。」
シャリ、シャリと雪を踏みながら、自宅までわずか5mの相合傘を歩き始めた時である。
「あっ!」
カメ子が奇声を上げると同時に、傘を引っ込めたのだ。
と、その瞬間、庭の紅葉の木に積もった雪が、ドサドサと私の頭に落ちてきた。
「ギャッ!何するんだ!カメ子! ひどいじゃないか!」
「あちゃー、すみません、あの、傘が枝に引っかかったので、破れたら大変と思い、とっさにひっこめたから・・・。」
「まったく、もう・・・」
これで私は、カメ子が私の頭より猫の絵がついた傘の方を大事に思っていることが良ーくわかったのです。
カメ子はそそくさと帰り、後にはぼたん雪だけが静かに落ちてくるのでした。
ある日、三十年来の友人から、久し振りにメールが入った。
元出版関係に勤め、昔は地球の裏側まで駆け回っていた女性です。今は故郷に帰り、フリーで続けている綺麗な方です。
それから子犬を気がけているが、あまり大きくならず、気立てもいい雌を中心に探すと、すぐには見つからない。
「先生、市の動物管理センターに子犬が掲載されていますよ!」
カメ子がホームページを見て私に教えてくれた。
「ふーん、どれどれ?・・・・」
里親探しや譲渡希望のページを開いて犬たちの写真を一つ一つ眺めていく。大部分は年齢不明の中年や高齢の犬たちである。
「・・・・・・・・」
どの犬の写真も、見ていくうちに憐れに思えて同情をしてしまう。
(みんな無事行き先が見つかるといいけど。)
実際、愛護活動を熱心にされている方も多いのだろう。同じ連絡先で何件も犬を保護されている方が掲載している。
(丁度いい犬が、いるかなあ・・・)
一度飼い始めたら、十五年は一緒に暮らすのだから、生活に適した伴侶がいいし・・・。
「あ、先生、雪が結構降ってますよ!」
考えているうちに、いつのまにか雪が降り始めていた。
暗い空から絶え間なく落ちて来る綿雪がやがてボタン雪に代わり、夕暮れと共に駐車場に積もり始めた。
道行く車は、雪よ溶けよとばかりに、シャーシャーとタイヤを鳴らして走っていく。
しかしそれ以外の所はすでに雪景色に変わり始めた。家々の屋根が、庭木が、真っ白な帽子をかぶっていく。
雪が激しくなり、その夜はあまり患者さんも来ないまま仕事を終える。
電気を消し、通用口に出るとさらに雪が降り頻っている。
「先生、どうぞ!」
カメ子が愛用の傘を差し出してくれる。猫が描かれた上等の傘です。
「おっ、ありがとう。カメ子と相合傘は、初めてだね。」
「・・そ、そうですね。」
シャリ、シャリと雪を踏みながら、自宅までわずか5mの相合傘を歩き始めた時である。
「あっ!」
カメ子が奇声を上げると同時に、傘を引っ込めたのだ。
と、その瞬間、庭の紅葉の木に積もった雪が、ドサドサと私の頭に落ちてきた。
「ギャッ!何するんだ!カメ子! ひどいじゃないか!」
「あちゃー、すみません、あの、傘が枝に引っかかったので、破れたら大変と思い、とっさにひっこめたから・・・。」
「まったく、もう・・・」
これで私は、カメ子が私の頭より猫の絵がついた傘の方を大事に思っていることが良ーくわかったのです。
カメ子はそそくさと帰り、後にはぼたん雪だけが静かに落ちてくるのでした。
2013-01-22 15:00
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