マツタケご飯事件
「こんにちわ、お昼をお持ちしました!」
元気の良い声で、お弁当屋さんが入ってこられました。この頃は、お昼ごはんは、たいてい届けてもらっています。
「あの、今日は百円増しでマツタケご飯がつけられますが、どういたしましょう!?」
「え? マツタケご飯! うーむ、どうしよう。・・・そうですねえ・・・じゃあ、おねがいします。」
予定外なので要らないとも思いましたが、秋の風物です。これを逃せば今年もマツタケのマの字も口に入らないでしょう。
ちょっと迷いましたが、私の分と、ぺ子の分、二人分のご飯をマツタケご飯に替えてもらいました。
さて、その後は午前中の診療を続け、重症の猫が来て走り回ったり、中学生の職場体験の指導をしたり、あっという間に時間は過ぎて、気がつくと一時近くになりました。
(おお、こんな時間か! 休憩、お昼だ!)
私はマツタケご飯を二つ、おかずも二つ、容器を四段に重ねて両手で持ちます。そしてそれを運んでいた時です。
中庭の犬の散歩場でドアを開けようと片手になった瞬間
上二つのマツタケご飯が、スルスルと容器をすべり、あっと思った時には、もう地面に落ちて、中がまき散らされました。
(うわあ、しまった!)
顔がひきつります。昼ごはんが! 昼ご飯が!・・・・
しかし、もう一つのマツタケご飯は、うまくひっくり返ったままボトリと着地、蓋もはずれず中身は無事でした。
(あちゃあ、しくじった!)という思いと、(ああ、一つは無事で良かった)と思う、複雑な感情を交錯させながら、私は、こぼれたマツタケご飯を手でかき集め、容器に戻します。
どうしよう、どうしよう・・・
どうしようもありません。
食事を、減らすだけです。
その日は、アデノイドの手術をすると言うので、六歳の孫が入院のため病院に出かけたのですが、
夕方まで私の心を騒がせたのは、落としたマツタケご飯のほうでした。