イチゴの痕跡
「はい、どうぞ。これはアトムちゃんからおすそ分けの、イチゴです!!」
お茶の時間です。マル子が白いお皿に燃えるような真っ赤なイチゴを載せて持って来ました。ネコのアトムちゃんは、家で大好きなイチゴをもらっているそうですが、有名な福岡産の「とよのか」よりも、こちらが好きなのだそうです。だけど、どんな品種だったか、名前を聞いたけど、マル子は忘れてしまったようです。
「わあ、美味しそう!」
「ヘヘ・・・、アトムちゃん、ありがとう、いただきます!」
「だけど、イチゴにもキシリトールが入っているから、低血糖を起こすのでイヌやネコには良くないんだってよ。アトムちゃん、大丈夫かな?」
「でも、栄養の先生が、イチゴには糖分も含まれているから、低血糖の心配はそんなにないと言ってたわ。」
そんなこと口々に言いながら、みんなイチゴにパクつきます。
「あら、マル子はどうして食べないの?」
「うん、私は、お昼に先にもらったから・・・」
その時です。カメ子が納得顔でこう言いました。
「ははあ・・・、それでわかったわ。さっき、ゴミ箱を覗いた時、イチゴの臭いがして、へたや、赤い汁がついた紙を見つけたのよ。
(むむむ・・・誰かケーキを買って来たのかな。・・・そして私が出勤する前に、もしかしたら、分けて食べたのかもしれないわね・・・)
と、その辺がずっと気になってたの。だけど、これで理由がわかったわ。アトムちゃんのイチゴだったのね!
晴れ晴れとした顔で、カメ子が言いました。
うーむ、カメ子、君の心にはそんな疑問が渦巻きつつ、今日は仕事をしていたのか。
恐るべし観察眼。相変わらず、食べものに対する嗅覚は、猟犬の如しだ。