父親を送って
「こんにちわ、すみません、先週はお伺いできなくて・・・」
「あら、こんにちわ!」
台風がまた九州に近づいているある朝でした。営業のムッシュHがおいでになりました。
ムッシュはまだ30くらいでしょうか、はつらつとした青年です。
「実は父が亡くなったもので、先週、忌引きを戴いていましたものですから・・・。」
「えっ、そうだったのですか・・・、それは・・・」
彼が若いので、きっとお父さんも若かったのではないかと思うと、それだけでも大変気の毒に思いました。
「七月に胆管癌が見つかって、大学病院で検査を受けたのですが、もう転移していると言われ、それから早かったですね。
実は祖母も6月に同じ病気で亡くなったばかりなんです。
最後はホスピスに入院して良い看護を受けましたが、そういうわけで、今度はまた父が、こんなことになって。
家族で相談して、違う病院ですがやっぱりホスピス体制のある病院に入って、そこで良くしてもらいました。
そこの先生から、『何でも好きなものを食べていいですよ。お酒やたばこもいいですよ。』と言われて、父はもう治らないんだなと、感じたようです。
私の息子が来年入学なので、『じゃあ、ランドセルを買いに行こう』と、父が言ってくれて、車いすで出かけました。それが5日の土曜でしたが、まもなく容態が悪くなって、11日に亡くなったんです。
え?私ですか? 一人っ子なので、後の手続きがたくさんあって・・・・
ランドセルの色ですか?フフフ・・・、今はやりの綺麗な茶色を選んでましたよ。」
親が亡くなる時に、兄弟がたくさんいると、少しは心強いが、一人っ子はずしりと悲しみがかぶさって来るのではないだろうかと、案じました。
「58歳は、若いですね。早すぎますね。
でも、ムッシュ、お父さんと同じ会社に入社して、鹿児島と福岡と勤務地は離れていましたが、同じ社員として働いたということは、それだけで、お父さんは喜ばれたんじゃないですか!?
きっと、嬉しかったと思いますよ・・・。」
「そうでしょうか・・・。喜んでくれていたでしょうかね・・・」
そんなお話をして、ほどなくムッシュは出て行かれた。
彼の後姿を見送りながら思いました。
お父さんを亡くすと、人生はさびしいものです。
自分を評価して、ほめてくれる人が、いなくなるから。
子どもは、幾つになっても、父親から、褒めてもらいたいものなのです。
父親から褒めてもらうと、男の子というものは、とても嬉しいものですから・・・。