「タマ(仮名)のことでは父がお世話になりました。」

マダムKがワンちゃんをトリミングに連れて来られた時、そう言われました。

「えっ? タマちゃん?・・・・えーと??」

受け付けをしていた猫娘がキョトンとします。

「あの、この前亡くなったでしょ、タマが。タマを連れてきていたのは、私の父なんです。」

「へーえ、ああ!・・・、そうだったんですか!」

 ムッシュYが大事にしていた三毛猫のタマちゃんが、亡くなったのは先週のことでした。19歳という長寿でした。

最近までそれほど痩せもせず、元気そうでしたが、夏になってから腎臓機能が低下し、何度か入退院を繰り返していたのです。

最期は日帰りで治療を続けながら、夜には連れて帰ってもらっていました。

「父はすっかり落ち込んでいるみたいです。電話をしたら昨日も泣いているようでした。

19年間も暮らしていたからですね、寂しいでしょう。今は一人ですし・・・。

心配ですけど、私が電話したら、また父が泣きそうですから、今日は電話をしてないんですよ。」

マダムは猫娘に、そう教えてくれたらしい。

「ふーん、そうか・・・。ムッシュまだ泣いておられるのか・・・。」

毎日暗くなるとなると、肩にカバンを提げ、面会に来ては静かにタマちゃんに目を注いでいたムッシュの姿を思い出して、私もしんみりとなった。

「19年間一緒の暮らしは、長かっただろうからねえ。」

「そうですね、寂しいでしょうね・・・。」

「せめてハガキでも、出してあげたいね。」

マダムからお預かりしたワンちゃんの耳を診察しながら、二人でそう話したのでした。