乙女の牛丼
今月から消費税が8%に上がった。ニュースによれば、牛丼屋さんの対応はこれを機に値上げする店と、なんと値下げする店とに分かれていると伝えていた。
お腹が空いてくる夜も八時ごろ、マル子は掃除をし、病院を閉める準備をしていた。
「私ですね、一度だけ牛丼屋さんに入ったことがあるんですよ。それも一人で。」
「おっ! マル子は行ったことあるのか。フムフム、 話によれば、女性は一人だとラーメン屋さんは入りづらいらしいけど、牛丼屋はどうだった?」
「はい、やっぱりちょっと、入りにくいですね。でもだいぶ前です、行ったのは。もっと若かった時ですが。ある日、どうしてもいっぺん、牛丼を食べてみたくなって、一人で行ったんですよ。
ためらいながらお店に入って、どうしたらいいのかわからなくて、ドギマギしたんですが、他のお客さんを見ていたら、何でもすごく速かったんです。
注文した人たちは、漬物とか味噌汁とか、いろいろ頼んでいて、ガッツリ食べる人が多いんですけど、直ぐ出来て来るんです。ご飯をつぐのも早くて、とにかく何でもすごく早いんです。
カウンターも独特で真ん中が開いていて、(へー、能率がいいのか)と、思いながら、キョロキョロ。
そして、食べて帰るのも早いんです。
まわりの勢いに圧倒され、私、緊張しながら並の牛丼一杯だけ食べました。
どんあ味だったか良く覚えてないけど、でも今なら周囲を気にせず、牛丼だけ見つめて食べれると思いますよ。フフフ・・」
なるほど、男はデパートの下着売り場の前を通る時、ちょっとドキドキするけど、若い女性は牛丼屋のドアを開ける時、ちょっと勇気が要るようです。聞いて見なければ分からないものです。
マルコの一回きりの牛丼屋探検は、こうして今も思い出のアルバムに沈んでいるようです。