袋の中のカメムシ
「キャー、先生、出ました!!」
夜の9時過ぎ、一日の仕事を終え、お疲れさんと言って帰りかけた時です。
検査室と診察室の間で、カメ子が叫びました。
「えっ? どうした? どうしたの?」
私が慌てて行ってみると、カメ子がしゃがみこんでいます。
「ほら、これ!」
「なんだ、またバッタだって言うんじゃないだろうね。」
「違います、ほら・・・カメムシですよ・・・」
「何だって? カメムシ・・・」
確かにそこには普段見ないような最大級サイズの大きなカメムシが立ちふさがっている。
独特の不整五角形の甲羅を背負った草茶色の虫が、腰を上げるようにして構えている。
「刺激するな! カメ子、刺激するなよ。刺激すると、嫌な臭いが部屋にこびり付くからな。」
明日、病院中がカメムシの臭いで充満したらたまらないので、私たちは慎重に対応することにした。
「何か、ないかな? 入っていただくもの。」
「何かって、何ですか?」
「ほら、決ってるじゃない、カメムシなんだから、閉じ込められる入れ物だよ!」
「そんなこと言ったって、何ですか?」
「うーん、もういいよ、ビニール、ビニール袋だ!」
「あ、はい、どれにしましょう?」
「散歩のウンチ袋でいいよ、うん、それでいい、それをくれ。」
私はカメ子が差し出した薄いビニールをひったくると、それに手を差し入れて、カメムシをそっと掴もうとした。それは、スーパーで生鮮食料などを入れるためにくれる透明なビニールです。
「ようし、捕まえたぞ。成功だ!」
優しく慎重に対処したので、カメムシは臭い液を噴出してくることはなかった。
そのままビニールを反転し、カメムシを閉じ込めると、袋の出口をくるりと結んだ。
「ようし、これでもう大丈夫だ。ビニールの中からは、まさか臭わないだろう。」
私は、ニコニコしながら、ビニール越しにカメムシを嗅いでみた。
と、その時である。
プーンと、強烈なカメムシ独特の緑紫色の臭気が、私の鼻になだれ込んで来た。
「グエッ! ググググ・・・・、駄目だ! こんなビニールじゃ・・・」
よろけながら慌てて鼻から袋を離し、私は顔をゆがめた。
「強烈だな、カメムシの臭液は。完全に袋を突き抜けているよ。」
私は自分の愚かさを思いつつ、生物が持つ自然の力の強さに感心した。
どうして、こんな強い臭いが存在するんだろう?空気を入れても閉じ込められるのに、どうして臭いは出てくるんだろう?
臭いって、こんなに通気するものなのだろうか・・・
私の鼻がカメムシの臭いを感知するように、きっと麻薬探知犬なんかは、犯人が知恵を絞って臭いを隠した荷物をたくさんの旅客カバンの中から、こんな風にして簡単に臭いを嗅ぎ当ててるんだろうなとも、思ったのです。
カメムシ恐るべし!
皆さん、カメムシを見つけたら、丁重に応対して、なるべく穏やかに帰っていただきましょうね。
夜の9時過ぎ、一日の仕事を終え、お疲れさんと言って帰りかけた時です。
検査室と診察室の間で、カメ子が叫びました。
「えっ? どうした? どうしたの?」
私が慌てて行ってみると、カメ子がしゃがみこんでいます。
「ほら、これ!」
「なんだ、またバッタだって言うんじゃないだろうね。」
「違います、ほら・・・カメムシですよ・・・」
「何だって? カメムシ・・・」
確かにそこには普段見ないような最大級サイズの大きなカメムシが立ちふさがっている。
独特の不整五角形の甲羅を背負った草茶色の虫が、腰を上げるようにして構えている。
「刺激するな! カメ子、刺激するなよ。刺激すると、嫌な臭いが部屋にこびり付くからな。」
明日、病院中がカメムシの臭いで充満したらたまらないので、私たちは慎重に対応することにした。
「何か、ないかな? 入っていただくもの。」
「何かって、何ですか?」
「ほら、決ってるじゃない、カメムシなんだから、閉じ込められる入れ物だよ!」
「そんなこと言ったって、何ですか?」
「うーん、もういいよ、ビニール、ビニール袋だ!」
「あ、はい、どれにしましょう?」
「散歩のウンチ袋でいいよ、うん、それでいい、それをくれ。」
私はカメ子が差し出した薄いビニールをひったくると、それに手を差し入れて、カメムシをそっと掴もうとした。それは、スーパーで生鮮食料などを入れるためにくれる透明なビニールです。
「ようし、捕まえたぞ。成功だ!」
優しく慎重に対処したので、カメムシは臭い液を噴出してくることはなかった。
そのままビニールを反転し、カメムシを閉じ込めると、袋の出口をくるりと結んだ。
「ようし、これでもう大丈夫だ。ビニールの中からは、まさか臭わないだろう。」
私は、ニコニコしながら、ビニール越しにカメムシを嗅いでみた。
と、その時である。
プーンと、強烈なカメムシ独特の緑紫色の臭気が、私の鼻になだれ込んで来た。
「グエッ! ググググ・・・・、駄目だ! こんなビニールじゃ・・・」
よろけながら慌てて鼻から袋を離し、私は顔をゆがめた。
「強烈だな、カメムシの臭液は。完全に袋を突き抜けているよ。」
私は自分の愚かさを思いつつ、生物が持つ自然の力の強さに感心した。
どうして、こんな強い臭いが存在するんだろう?空気を入れても閉じ込められるのに、どうして臭いは出てくるんだろう?
臭いって、こんなに通気するものなのだろうか・・・
私の鼻がカメムシの臭いを感知するように、きっと麻薬探知犬なんかは、犯人が知恵を絞って臭いを隠した荷物をたくさんの旅客カバンの中から、こんな風にして簡単に臭いを嗅ぎ当ててるんだろうなとも、思ったのです。
カメムシ恐るべし!
皆さん、カメムシを見つけたら、丁重に応対して、なるべく穏やかに帰っていただきましょうね。
2011-09-27 15:00
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