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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

苦手なもの三つ

「猫のワクチンをお願いします!」

「はい、マダムこんにちわ! 三回目のワクチンですね。」

「はい、そうでーす。」

時々外に出かけるミーちゃんを連れて、マダムがお出でになりました。ミーちゃんが外に出るので、白血病ワクチンも、エイズワクチンもうちました。特にエイズは初年度は三回も必要です。

「おや、マダム、注射の時は顔をそむけていますね。そんなに痛くはありませんよ。」

「いいえ、先生、私は尖った刃物とやくざと蛇は、苦手なんです。」

「ハハハ・・、そう言えば、前回もそうおっしゃってましたね。でも、イケメンの男なら大丈夫ですか?」

「いいえ、先生、私だめなんです。私三回も結婚に失敗して、DVにもあってもう、男性恐怖症です。だから、何かの会合で、男性のそばにいると、もう、恐くてだめなんです。」

「うーむ、トラウマがあるんですね。」

「はい、緊張してしまいます。」

マダムは微笑みながら、診察室を出て行かれた。どうやら、私は男の内には入ってないらしい。

それにしても、いろんな人生を歩いて来られた方が、過ぎた日々は胸に沈めて、それぞれ大事なペットを抱いて、今日も動物病院においでになる。


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カラスよ、おまえなのか!?

「先生、これ、何でしょう? 瓦みたいなのが、玄関に置いてましたけど。」

「え? 何々? あら、瓦だね。どうしたの?」

「はい、玄関の階段のところに、ちょこんとありました。」

「えーっ、どうしてそんな物が、・・・まさか!?」

私はあわててドアを飛び出し、玄関先に行った。

「ほら、ここの所にあったんです。」

猫娘が指さす。私はそこからすーっと屋根へ視線を上げていった。

「やややっ、あそこだ! ぬぬぬっ! 瓦が割れてる!」

玄関横にある犬の入院室、その大屋根の真ん中の瓦が一部割れて、その半分が落ちてきたようだ。

「どうしたら、あんな真ん中の瓦が、一枚割れるんだ!?」

理由がわからないが、下の防水シートがむき出しになっている。これは早く直さないと、雨が降り出したら大ごとだ。空は曇り模様です。

私はあわてて駆け戻ると、知り合いの工務店に電話をした。

幸い数時間後、屋根屋さんが見に来てくれた。若い青年だった。

「ああ、あそこですね。勾配がきついなあ。」

「あの、どうして突然、屋根の真ん中の瓦が割れるんですか?どうしたら、こんなことが起こるんですか?」

私は納得がいかないので、屋根屋さんに聞いた。

「うーん、よくカラスが物を咥えていて、空から落とすことがあるみたいなんですけどね・・・。」

「カラスがですか、むむむ・・・」

誰も目撃者がいないし、ここでカラスを犯人に決めてしまうのは、それこそ思い込み捜査だが、私の頭では次の瞬間には、黒ずくめの悪者ガラスが、空を悠々と飛び去る姿が、浮かんできた。

「あほー、あほー」

「むむむ、なんと迷惑な奴らだ!」

 何の証拠もないのに、もう犯人は絞り込んでしまった。とはいえ、どうしようもない。仮に現場を目撃していたとしても、もう一度飛んできたカラスが果たして同じカラスかどうかも、見分けがつかないだろう。彼らは完全犯罪ができる。

「むむむ、どうしようもないのか・・・」

人間様だと普段威張って、動物を憐れんでるが、翼を持って大空を自由に飛んでいるカラスから見たら、人間なんてくだらないねと、思っているかもしれない。

うーむ、それにしても、世の中ってのは、いつ何が空から降って来るか、わからない危険な世界だったのか。

隕石でも、雷でも、火山弾でも怖いが、爆弾やミサイルは遥かに怖い。何しろ人を殺そうと狙って落ちて来るのだから。

カラスの落とし物くらいの心配で済む日本であることを、とりあえず感謝しなければ。


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ピザ職人の代償

「あら、手には、消炎剤ですか?」

新しく迎えたトイプードルの子犬、そのワクチンにマダムKが御嬢さんと来られました。その御嬢さんの白くて細い両手に、しっかりシップが貼られていたのです。

「はい、ピザ屋さんでバイトをしてたんですが、一日百枚くらい焼いてるうちに、腱鞘炎になって・・・。」

「へーえ、百枚ですか?むむ、ピザ屋さんのは、ピザ生地は最初から出来ているんじゃないんですか?」

「はい、団子状に丸めた冷凍生地があるんです。それを解凍して、一個一個押して引き伸ばしたり、それからグルグル回転させたりして広げていくんです。

ガラスの向こうで、お客さんや子供たちが見つめているので、パフォーマンスに緊張します。

え?腱鞘炎ですか?正月から病院に通い始めて、もう一年近くになります。ブロック注射も十数回打って・・・。バイトはもう止めました。」

「正月から?・・・それは長いですね。大変ですね。うーん、それだと、・・・家のお掃除も手伝えないね!」

「うん、そう。ねえお母さん、ドクターの命令だよ。お掃除なんか、手伝わなくていいって。」

「だめよ、そんなことはないわ。掃除はしてくれないと・・・。」

「だって、先生が・・・」

「だめよ、だめだめ、・・・」

私が余計な冗談を入れたので、お母さんと御嬢さんが笑いながら言い合っています。

こうして三か月の可愛いプードルは,ワクチンをうち終えて、みんな元気に帰っていかれます。

「今日は立冬」と、テレビでアナウンサーが盛んに言っている、ある日のことでした。


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嵐の博多湾

それは台風が接近しているある日、そしてマル子の休日でした。

台風が来ると雨も降りだすし、あまり遊びに行けるところがありません。その日も頑張って、妹と二人、海ノ中道海浜公園まで出かけましたが、案の定休園でした。

「よし、水族館へ入ろう!」

屋根がある水族館だけは、開いていたのです。

「わあ、きれい!」「きゃあ、可愛い!」

水槽の魚を見て言っているのか、ガラスに映った自分を見て言っているのかわかりませんが、一とおり園内を回って外へ出てみると、なんと随分風が強くなっているではありませんか。

目の前のヤシの木がビュンビュン殴りつける風にかしいでは起き上がり、起き上がってはかしいでいます。白いビニール袋がどこからともなく飛んできたと思ったら、あっというまに空の彼方に消え去りました。

「これは大変! 早く帰らなくちゃ!」

マル子たちは、急いで船着き場に走ります。構内に入ると乗船券売り場の窓口に駆け寄ります。と、職員たちが何やら話しています。

「結構、風が強いですよ!」

「うーん、ますます近づいてるなあ」

「どうしようか、欠航しようか?」

そんな職員たちの会話を耳にはさみ、マル子がおずおずと尋ねます。

「・・・あの、船が止まるんですか?」

「・・・・」

と、その時です。

「僕が運転してやるよ!」

年配のおじさんが、そう言ってくれたかと思うと、マル子たちを船に案内しました。

船の出航って、案外アナログな決定なのですね。

台風の接近中です。どんな船だったか聞きませんでしたが、博多湾の中とは言え波はかなり高く、必死で進む船の窓まで波が打ちつけていたそうです。

「むむ、暗くなってきたし、大丈夫かしら?」

ちょっぴり不安もよぎりましたが、かくして無事に船はマリゾンへ到着、どっかりとした大地に足をつけ、マル子の休日は終わったのです。


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