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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

川で捕まえたカラス

「カラスを保護したので、診て下さい。」

午後の三時をまわった頃、青年が、ダンボールを抱えてお出でになりました。

(むむ、カラスか・・・)

時々カラスが連れてこられます。強い、賢い鳥ですから、保護される時は、相当弱っています。

「川に落ちて、飛べなくなっていたんです。」

ダンボールの中を覗くと、まだ成長しきっていない、若い個体が入っている。

「川にいたんですか?」

「はい、朝から川にいたのは見てたんですが、いつまでもウロウロしていて、雨も降ってきたし、川が増水すると、流されてしまうと思って助けました。」

雨の中を、わざわざ川に下りて行って、あっちの草むら、こっちの石の上と、逃げるカラスを追いかけてまわったのだろう。彼の好意など知るよしもなく、強い嘴で噛みつかれながらようやく捕まえたのだろう。その優しさに、想像しただけで、頭が下がる。

「どれどれ・・・」

薄手の革手袋をして、カラスを箱から出す。

「ガーガー、グエッ、グエッ・・」

抵抗するが、体力が落ちているようで、羽ばたかせることもなく、両羽を包み持つことができた。

「イテテテテ・・・」

しかし、頭を360度回しながら、手袋に噛み付いてくる。それが結構痛い。手袋を破りそうである。慌てて、首根っこまで指を移動して保定する。

落ち着いて調べると、右足が大きく外側に開き、体重がうまく支えられないようだ。左足の爪だけ切られたように短く磨り減っている。

何かの病気と言うより、胸筋はげっそり削げ落ち、栄養不足に見える。目は澄み、嘴ががっしりと太くて、ハシブトガラスと思われた。

「ムッシュ、この子はまだ若いと思います。でも、生まれつき右足が奇形か、障害を受けたと思います。だから、いつも左足ばかり使ってきたので、爪がそちらだけ、こんなに短くなっていると思いますよ。

うまく食事が得られなくて衰弱したか、病気で弱ったかまだわかりませんが、とにかく手厚い療養、看護が一番です。」

抗生物質と栄養剤を使って、様子を見てもらうことにした。

カラスの世話は、本当に大変です。きちんと治療しようと思えば、最低でも四畳半くらいの部屋が必要です。

ニュースでは、台風4号が沖縄南方沖を通過していると伝えている。明日には九州に近づくと言う。

カラス君、捕まってすぐパンは食べてくれたと言うから、回復の望みがある。

今日から、いっぱい食べてくれたらいいけど。そして、力が漲ってきたら、カラス君

はたしてもう一度、空を舞うことができるだろうか・・・。
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