蒲江の海
「私もこの頃は、佐伯に帰ろうかと考えたりしているんですよ。」
プードルのランちゃんに飲ませる心臓の薬を取りに来られたムッシュTが、そう言われました。
「佐伯ですか?番匠川の流れてる。」
「はい、河口のほうの、蒲江(かまえ)というところなんですよ。兄が漁師をしてましたが、もう八十を過ぎて危ないからと言われて、今はやめたんですけどね。
子供の頃は、私も海に潜って、遊んでました。時々テングサをとって売ったりして。結構小遣い稼ぎになったんですよ。テングサ、トコロテンの原料のね。」
学校を出た後は、横浜で暮らしてたんですが。福岡に移って、ランドクルーザー走らせて、呼子へ釣りに行ったりしてました。でも女房も死んで、子供たちは東京にいるし、蒲江に帰ろうかと、考えているんです。
蒲江はヒラメの養殖が盛んなんです。
それから、アジの味噌汁がうまいんですよ、アジの味噌汁、先生、食べた事あります?
12cmぐらいの小さめのアジを、丸ごと、そう、頭も尻尾も丸ごと味噌汁に入れて食べると美味いんですよ。
それから、カワハギも美味しいの。皮をむいて、内臓を取って、肝は残して、それを丸ごと吸い物に入れるんですよ。ええ、頭も入れる。剣だけは取ってね。
それに豆腐を入れて、薄口醤油とお塩をちょっと。
美味しいよ。
あのね、変な店に行くと、『はい、フグお待ち!』なんて言って、カワハギ出す店もあるんですよ。どうせわからないかと思ってね。
『大将、何、これ、カワハギじゃないの!冗談じゃない、わかるんだよ。猟師町で育ったから。』って、文句を言ってね。ハハハ・・・。
『サバの生き腐り』って、わかります? サバは見たところくたびれて死んでるかな?と思っても、案外生きてて、尻尾をバタバタさせて他の魚を傷めるんです。そういう意味だと思います。
だから、サバは、釣ったらすぐに絞めないと他の魚が悪くなっちゃう。
タイは80m、90mの深い棚にいるんですが、『腐ってもタイ』って言うでしょ、身の締まってるタイは、傷んでも、そこの所だけ取り除けばまだ食べられるんです。
だから『腐ってもタイ』って、言うんだと思います。良く、知らないけどね、ハハハ・・・。
女房ももういないし、もう呼子まで走る気もしないし、前はこの子と、ゴールデンもいたんで、大きな車にしましたが・・・。
この頃は、もう、佐伯に帰ろうか・・・と、考えているんです・・・。でも、病院も近くにないから、そういうのがちょっと困るなあってね、ハハハ・・・」
蒲江は、大分県の最南端、小さな港町だそうです。
奥さんに先立たれ、今は一人になり、老後を肉親や知己の多い故郷で過ごそうかと、迷っておられるようです。
だれでも、年をとったら、どこで暮らそうかと、考えます。
思い巡らし、一人で静かに逡巡しているムッシュに、一番良い結果が出ますように、祈ります。
プードルのランちゃんに飲ませる心臓の薬を取りに来られたムッシュTが、そう言われました。
「佐伯ですか?番匠川の流れてる。」
「はい、河口のほうの、蒲江(かまえ)というところなんですよ。兄が漁師をしてましたが、もう八十を過ぎて危ないからと言われて、今はやめたんですけどね。
子供の頃は、私も海に潜って、遊んでました。時々テングサをとって売ったりして。結構小遣い稼ぎになったんですよ。テングサ、トコロテンの原料のね。」
学校を出た後は、横浜で暮らしてたんですが。福岡に移って、ランドクルーザー走らせて、呼子へ釣りに行ったりしてました。でも女房も死んで、子供たちは東京にいるし、蒲江に帰ろうかと、考えているんです。
蒲江はヒラメの養殖が盛んなんです。
それから、アジの味噌汁がうまいんですよ、アジの味噌汁、先生、食べた事あります?
12cmぐらいの小さめのアジを、丸ごと、そう、頭も尻尾も丸ごと味噌汁に入れて食べると美味いんですよ。
それから、カワハギも美味しいの。皮をむいて、内臓を取って、肝は残して、それを丸ごと吸い物に入れるんですよ。ええ、頭も入れる。剣だけは取ってね。
それに豆腐を入れて、薄口醤油とお塩をちょっと。
美味しいよ。
あのね、変な店に行くと、『はい、フグお待ち!』なんて言って、カワハギ出す店もあるんですよ。どうせわからないかと思ってね。
『大将、何、これ、カワハギじゃないの!冗談じゃない、わかるんだよ。猟師町で育ったから。』って、文句を言ってね。ハハハ・・・。
『サバの生き腐り』って、わかります? サバは見たところくたびれて死んでるかな?と思っても、案外生きてて、尻尾をバタバタさせて他の魚を傷めるんです。そういう意味だと思います。
だから、サバは、釣ったらすぐに絞めないと他の魚が悪くなっちゃう。
タイは80m、90mの深い棚にいるんですが、『腐ってもタイ』って言うでしょ、身の締まってるタイは、傷んでも、そこの所だけ取り除けばまだ食べられるんです。
だから『腐ってもタイ』って、言うんだと思います。良く、知らないけどね、ハハハ・・・。
女房ももういないし、もう呼子まで走る気もしないし、前はこの子と、ゴールデンもいたんで、大きな車にしましたが・・・。
この頃は、もう、佐伯に帰ろうか・・・と、考えているんです・・・。でも、病院も近くにないから、そういうのがちょっと困るなあってね、ハハハ・・・」
蒲江は、大分県の最南端、小さな港町だそうです。
奥さんに先立たれ、今は一人になり、老後を肉親や知己の多い故郷で過ごそうかと、迷っておられるようです。
だれでも、年をとったら、どこで暮らそうかと、考えます。
思い巡らし、一人で静かに逡巡しているムッシュに、一番良い結果が出ますように、祈ります。
2012-08-06 15:00
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