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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

それなりに見えた?

「あなたのお子さんですか?」

待合室にいた時、飼い主さんからマル子がそう尋ねられました。

ちょうどその時、待合室には里親探しの子猫がケージに入れられて展示されており、その子猫目当てに近所の小学生が二人、遊びに来ていたのです。

ケージの前に陣取って座り、指を入れて子猫を可愛がったり、ウロウロしていたのです。その子達にマル子が優しい声をかけていたので、子供と勘違いされたようです。

「えっ、いいえ、ちがいますよ。」

マル子は笑いながら即座にそう答えました。

「フフフ・・・」
そこに居合わせた私もニヤニヤしながら聞いていましたが、でも改めて考えさせられました。

20歳で当院に勤め始めてから、少しも変わらない様に思っていましたが、そうか、彼女も随分おとなになったのでしょう。
今では欠くことのできない大事なスタッフです。

あるいはその時の言葉には、ちょっとだけ歴史を感じた?かもしれませんが・・・。

そういえば、私も最近出かけた店先で、親切な店員さんから「どうぞお待ちの間、お掛けになりませんか。」って、言われる事が増えたような気がしますが、

うむ、あれは、やっぱりそういう意味かしら・・・?
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かあちゃん、ナイスタイミング!

「ハハハ・・・今日は連れて帰ろうか。」

ムッシュKがニコニコの笑顔で来院されました。お孫さんでしょうか、中学生くらいのお嬢さんもご一緒です。

長く入院中だった柴犬のトトちゃん(仮名)がやっと帰宅できる日が来たのです。
トトちゃんはこの夏に具合が悪くなり、検査でフィラリアに感染している事がわかりました。

「ムッシュ、トトちゃんはフィラリアと暑さで心臓がやられていますね。薬で治療するか、手術するか、どちらかになりますが・・・。」

「うーん、そりゃ、思い切って注射うってもらうしかないだろ」

「先生、でもトトはどうなりますか?」

心配して隣のマダムがお尋ねになりました。

「はい、どちらもそれなりにリスクがあります。強い副作用がでるかもしれません。あの、三つ目の方法もないわけではありません。トトちゃんは高齢でもありますし、安静にしてとにかく病状を落ち着かせる手もありますが・・・。」

いろいろ相談の結果、積極的なきつい治療は避け、夏の間ずっと安静入院という事になったのでした。

幸いトトちゃんは、人当たりが優しくて病院の生活にもすぐ慣れ、ストレスもなくのんびりと過ごし体重も僅かに太るくらいになりました。

それから2ヵ月でした。今日やっと退院です。

「かあちゃんは、まだかなあ? 」

今日は、奥様ももうすぐ来られるというので、ムッシュは暫らく待合室で待っていましたが、痺れを切らしたのでしょう。

「かあちゃんは、まだみたいだ。よし、もう先に帰ろう。ワハハ・・・、トトほら、帰るぞ!」

ムッシュはお孫さんを促すと、リードを引っ張って駐車場に出ました。そして銀色のワゴン車の後部を開け、「よいしょ」と、トトちゃんを乗せます。

「さあトト、じっとしとけよ。」

そしてバタンと閉めようとした瞬間です。

「あっ、危ない!!」

ムッシュが閉める直前に、トトはするすると手前に出てきて、ひょいと飛び降りてしまったのです。そしてそのままタタタタ・・・と、逃げ出しました。

けれど、隣はすぐ車道です。夕方の帰りを急ぐ車が行き交っています。

「うわあ! 撥ねられてしまう!!」
「もう、駄目だ!」

誰しも覚悟をした瞬間でした。
その時、駆けて行くトトの首から垂れたリードを、ぐいと踏みつけた人がいました。

トトがガチッと止められます。

「あっ、かあちゃんだ。」

そうです。危機一髪のタイミングで、トトの引き綱を踏んだのは、今到着したばかりのマダムでした。

「おー、危なかったなあ・・・ハハハ」

「あなた、危ないじゃない、こんなとこで放してしまったら・・・。」

その光景を窓から目撃していたスタッフ達も、胸をなでおろしたのです。

(やっぱり母ちゃんは、頼りになるなあ。)
笑っているムッシュも、きっと心の中ではそう思ったことでしょう。
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ユーモアを失わない

「ケンガクハ、ムリョウデス!」

ムッシュKのユーモアある言葉に、私たちは、思わず吹き出しました。

それはこの連休中、小倉の病院にお見舞いに行った時でした。

話は昨年に遡ります。
ある日、ムッシュが駅を出て歩いている時に後ろから車に撥ねられます。非常に深刻な容態となり、長らく意識不明で集中治療室に入っていました。

「・・・ご主人は、もう二度と目を覚まさないかもしれません。」

担当のドクターからそう言われ、マダムは随分心配されたと思います。しかし幸いなことに、その後わずかづつ体の機能が回復を始めてくれたのです。

ムッシュは以前製鉄関係に勤めた方で、テニスも楽しむスポーツマンでした。マダムもオルガンなどを良く弾く美しい方です。当時、私はまだ小学生でしたが教会でいつもお世話になりました。

私の記憶には、ムッシュはいつも笑顔で溌剌として、人を楽しませ笑わせる兄貴分のようなイメージがありました。
それは昔、昔・・・の記憶です。
それからは、ずっとムッシュにお会いする事もなかったのです。

さて、事故から9ヶ月の間に、ムッシュは片目だけまぶたが開くようになり、手も少しづつ動くようになり、なんとか自力でスプーンを握れる程度に回復してきました。

混乱していた記憶も少しづつ取り戻し、息子と孫の見分けがようやく出来始めたところでした。

私たちはムッシュがリハビリの為に転院した先へお見舞いに伺い、

「ムッシュ、大変でしたね、今からリハビリですか?」

と、話しかけたところ、

「アア、ケンガクハ、ムリョウダヨ!」

と、まだ不自由な舌で冗談を返してくれたのです。

ベッドから車椅子に、介護士の手で慎重に移してもらいながらムッシュはそう言って笑わせてくれました。

そして車椅子は静かにリハビリのフロアへ向かいました。

その瞬間私は胸の中で熱いものが弾けたような気がしました。人の「冗談を言う」という能力は素晴らしい力だと、感じ入ったのです。

ある日、全く他人の過失で死にそうな目に遭い、突然トイレも食事も不自由な体になり、喋る訓練から食べる訓練、起き上がる訓練、立つ訓練などを若い介護士に手取り足取りしてもらわなければならない体になった時に、

打ちのめされたり落ちこんだり、あるいは誰かを恨んだりしているのでなく、見舞い客を笑わせるユーモアを紡ぎ出せるなら、なんとその人格活動は素晴らしいものかと、深く打たれたのです。

リハビリのフロアで介護士に抱かれ、平行棒の手すりに摑まってゆっくり歩く練習をしているムッシュに、

「こんなに緊張して一歩一歩歩くのは、結婚式以来じゃないですか?」

と、ささやくと、ムッシュは小さく笑ってくださいました。
「笑える」というのは、素晴らしい能力です。

そして、私共が帰る時に、

「キョウハ、リハビリスルチカラヲアタエテクレテアリガトウ」

とまで、有り難いお言葉を下さいました。

小さな頃から、ムッシュには沢山のことを教えていただきましたが、あれから40年たって、今回も再び大切な事を教えて戴いたと思わずにはいられません。
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途中での「後書き」

途中での「後書き」


日記を読んでくださる皆さん、一日お仕事お疲れ様です。

今日は一日、楽しく働けましたか?
それとも、すごく大変なことがありましたか?

いつだったでしょうか。ある日私は飼い主さんからこう言われた事があります。

「先生、先生は結構暇なんですか? いつもコラムを書いてますけど。」

冗談を交えた会話でしたから、それは別に良いのですが、ただ色々な方がこの欄を読まれるでしょうから、たまには「あとがき」のような文章も入れていたほうがいいかも・・・と思いまして、今日は少し異色です。

この日記は、時間があるから書いているのでもなく、何か可笑しい事があるから面白くて書いているのでもありません。

実は筆者としてはかなり頑張って、無理に頭をひねりながら続けさせていただいています。

その理由は、内面的なことです。

当院に来て下さった飼い主さんたちが、もしかしたら一日の仕事の中で、大変嫌な出来事があっておちこんでいるかもしれません。
また、悔しくて悔しくて、泣きたくなるような出来事があったり、
あるいは理由ははっきりしなくてもなんとなく寂しくて、そしてなんとなくこの日記を開こうと思ってくださった方がおられるかもしれません。

そんな時に、ほんのわずかでも慰めになる微笑みか、あるいはちょっとだけのユーモア・笑い、もしくはちょっとだけ胸に沁みて勇気づけられるような話しが届けられたらと思い、続けているのです。

ですから、
このコラムで、なにか可笑しい、ふざけたような話しが登場しても、それは筆者が単なる「笑い」を配ろうとしているのではないのです。

むしろ、ささやかな笑いを通して「慰め」を届けたい。
フッと笑ってもらって、わずかでも「癒し」になるような一文を提供したい。
そう思って、日記を続けています。

こんなことは、このコラムの終了日に、つまり筆を置く時に、「後書き」でひっそりと述べるべきことかもしれませんが、

現実はネットで、毎日毎日色んな方が、事情もわからないまま読まれるケースもあるでしょうから、ただふざけている病院と誤解される可能性があるとすれば、それは残念でお互いの為に益にならないかと思い、本日は例外的に理由を述べさせていただきました。

だらだらと申し上げ、本日は堅くなりましたことを、おゆるし下さい。

どうぞ皆様が、今夜も一日の癒しを得て、明日に向かう力が与えられますように、お祈りします。


   「香油と香料は 心を喜ばせ、
    友の慰めは たましいを力づける。」
                     箴言27章9節
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名刺読み取り機能

「先生、先生の携帯には名刺読み取り機能ってついてますか?」

カメ子がなんだかわけのわからないことを聞いてきた。

「ん? 名刺読み取り機能? なんだそれは。」

「あのですね、携帯にカメラがついているでしょう。そのカメラで名刺を撮ると、あとは勝手にアドレス帳にその人の情報を記載してくれる機能なんですよ。」

「写真をとるだけでアドレス帳に移してくれる? アハハそんな馬鹿な!」

「じゃあ、先生の名刺をちょっと貸してもらえますか?」

カメ子は私の名刺をアップで携帯カメラに撮る。

「ちょっと待ってくださいね、・・・えーと、はい、これです。」

「・・・・ん! 本当だ。勝手に僕の名前、役職、住所、電話番号、メールアドレス、全部項目別に整理されて記載できてる。えー、すごいなあ。」

「実はですね、私忘れてたんですけど、私のアドレス帳に不動産屋さんの男の人が載ってたんですよ。

細かく記入しているのですけど、それが不思議だったんです。

(おかしいなあ、私、こんな人を好きになった覚えもないのに、なんでこんなに詳しく書いているんだろう。)

私、最初わからなかったんです。
どこかで過去の記憶がとんだのかなあ・・・って、一瞬心配になって。

そしたら、そうか、名刺読み取り機能で撮ったんだって思い出して、私、ちょっと安心しました。」

笑いながらカメ子が言う。

そんなカメ子をちょっと可愛く思ったが、そのあとすぐ彼女は私の情報をプチプチと消去していた。
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新型機械の感想

残暑の夕暮れ時でした。
ある手術用機械メーカーのムッシュが、車に荷物を積んでお出でになりました。

数日前に組織止血凝固装置について問い合わせた所、その機械を持ってデモンストレーションに来てくださったのです。

機械を積んだワゴンを押しながらムッシュは手術室まで運ぶと、額に汗を浮かべながら設置の準備にかかります。

「これは、このままカンシでパチンと挟んでフットペダルを踏むだけで、高周波電流が流れ、血管をシールし止血してくれるのです。

ちょっと、お待ち下さい。今、肉を出しますので・・・」

ムッシュは持ってきたラップを開けると、白いトレイに載った厚切りの肉をつかみ出しました。

「どうぞ、これで試してみてください。」

ムッシュの説明を聞きながら、私はその肉片を手に持つと、赤い肉の部分をカンシで挟みます。

青いペダルを踏むと、カンシの周りがジプジプと組織が沸騰するような音を立てて白くなります。センサーの音が変化するのに合わせてペダルから足を離すとそれで止血が終了です。

慣れれば操作は簡単そうです。
カンシの全体が大きくて、細かい扱いをやりにくそうでしたが、大きな部分や出血体質の子などどうしても止血に難儀する時には役に立ちそうです。

「では、一週間ぐらい置いていきますので、使ってみてください。」

ムッシュはそう言うと、帰って行かれました。

「ふーん、なかなかいいかもね、脾臓の摘出のときなど、スピードアップになるだろうね、どう思った?」

私がネコ娘にデモの様子を聞くと、彼女が答えました。

「あのう・・・、持って来られてたお肉はトンカツ用のヒレかロースのような、高そうなお肉でしたね。

めくれたラップの所に貼られていたラベルに、「ロ」の字が見えたのでロースかもしれません。

それとその下に、『お買い得品』って書かれてましたよ。」
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決闘、マムシとJRT

それは銀二(仮名)が一人で留守番している日でした。
銀二はジャックラッセルテリアの男の子です。八月でちょうど6歳になったばかりです。

「じゃあ、銀ちゃん、頼んだわよ。すぐ帰ってくるからね。」

その朝マダムYは、銀二の頭を撫でながらそう言うと、門をしっかり閉めて出て行きました。

「ふん、まかせとけって。」

銀二はマダムの後姿を見送りながら、ベランダに寝そべってそうつぶやきました。

それから暫らくして・・・

「ピンポーン」

門扉のチャイムを押している、男の人がいます。

「ん? 誰だ?・・・何だ、セールスみたいだな・・・」

銀二は庭から首を伸ばして様子を窺っていましたが、ネクタイをしたその男は、ズボンのポケットからハンカチを取り出すと、首筋の汗をぬぐいながら、向こうに行ってしまいました。

(ふん、ご苦労なこった。やれやれ、今日も暑くなりそうだぜ!)

太陽は間もなく中天にさしかかります。庭に植わった桜の木では、緑の葉陰でクマゼミが何匹かワシャワシャ鳴いています。

と、その時でした。

カサ、カサ、シュルシュル・・・・

「ん? 何か音がしたぞ! 何だ、妙な音だぞ!」

銀二は耳を後ろに向けたり、右に向けたりしながら、正確な方向を聞き定めて、さっと振り返りました。

と、音の方向を見た瞬間、銀二はとっさに1mほど飛びのくと、全身の被毛を逆立てます。

「ウー!!」

なんと彼のすぐ後ろに、大きなマムシが近づいていたからです。

「フワーッ!」

マムシも銀二の存在に気づかなかったのでしょう。突然目の前で跳ね起きた犬にびっくりし、直ちに戦闘態勢をとりました。
耳まで裂けた三角形の口を開け、冷たい目ではっしと相手を見据えると、ゆらゆらと鎌首を前後にゆすりながら、銀二を威嚇します。

「ほー、ちびすけ、ちっとも気がつかなかったぜ。こんなところにいちゃあ、危ないぜ。見逃してやるから、早くママの所に帰りな。」

チロチロと、赤い舌を動かしながら、マムシはそう言いました。黒い大きなマムシです。
銀二の家の近くには、最近地下鉄の駅も出来ましたが、まだ周辺には少し田圃も残っており、きっと青大将やマムシも生活の再建に大変なのでしょう。

まだ時々ヘビが住宅に出没するのです。

「ウー、グルグルグルー」

銀二は初めて出会う相手にびっくりしますが、うかつに探りを入れません。
彼の本能は、この黒いヒモ野郎が非常に危険な相手であることを教えました。

一歩銀二が近づいた時、ふわりふわりしていたマムシは突然口を開けたまま一直線でミサイルのようにシュッと飛び込んできます。

「うおっと、危ねえ、危ねえ。」

それをすかさず避けてひやりとしながら飛び退いた銀二は、また相手との間に二歩ほどの間合いをとります。

(ふん、それがおまえの流儀だな、なるほどね)

「他人の庭に入り込んで来ながら、そんな挨拶はねえだろう。」

マムシは相手が小さな犬と思って舐めてかかったのでしょうか、思いがけず第一撃に失敗したことを悟ると、ゆっくりと横ずさりをしました。
どこか、近くに逃げ込める穴を探しているのでしょうか。

「おい、黒ヒモやろう、遊んで行けよ、まだ帰らなくてもいいだろう。」

銀二はそう言うと、また一歩近づき挑発します。

「小僧、図に乗るんじゃねえぜ、俺様に咬まれたら、痛いじゃすまないんだぜ。」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、再びマムシは黒い矢のように飛び込んできます。

「シャーッ!」

マムシの第二撃が襲い掛かってきた刹那、銀二はわずかに顔を傾けてその毒牙をやりすごしたと思うと、間髪を入れずに通過していくそのマムシの三角頭の後頭部に、おのが牙を刺し込みました。

「グワッ!」

武蔵と小次郎の勝負のように、それは一瞬で決まりました。

中枢を咬み砕かれたマムシは、そのまま力なく倒れこみ、ただ尻尾だけがしばらくぱたぱたうねっているだけでした。

「ぺっ、黒ヒモなんか、俺の口には合わねえや。」

動かなくなったマムシを暫らく見守っていた銀二ですが、ふと忘れ物でも思い出したかのように急にトコトコ歩き出すと、またベランダに戻って、ごろりと木陰で寝転びました。

それから間もなくして、マダムが帰ってきました。

「ごめんね、銀ちゃん、待たせたわね、いい子にしてた?お土産があるわよ・・・

あれ、これ、何かしら? この長いの・・・

ギャアッ! ヘビだ! ヘビだ! 銀ちゃんヘビよ、助けて!

・・・・・・

あれれ、動かないわね。それに血だらけになってる。
死んでるのかな?どうしたのかしら、

どうしてこんなところで、死んでるの?
・・・・・・」


(ムッシュYからお聞きした、血だらけのマムシが庭に死んでいた事件を題材に、
あとは動物記風に脚色しました。)
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カメ子の選挙

「選挙は行かれましたか?」

歴史的な総選挙が終わった翌日です。キャバリアを連れて来た義姉に、私は皮膚病の診察をしながらそう尋ねました。

「ええ、でも私は一週間前に不在者投票をしてたのよ。」

ニッコリ笑って義姉がそう答えた時、すかさず傍にいたカメ子が口をはさみました。

「あっ、私も不在者投票しましたよ。ただ前日の土曜日でしたけど。
それが私ですね、てっきりいつもの投票場で投票できると思って、近所の集会所に行ったんですよ。

そしたら、確かに部屋の中に投票箱とか、机とか、会場の準備は
出来てるように見えたんですが、コチコチと叩いても、誰もいないんですよ。

『あれ? おかしいなあ?』と思ってたら、何かの始まる時間なのか、そのうち子供が入って来てですね。」

「ドジだなあ、やはりカメ子は。近所で投票できたら、普通の投票を二日間やってるのと、同じじゃないか。不在者投票は、区役所とかでしょ。

じゃあ、なんだい、『ここじゃないよ!』って、子供に教えられたのかい?」

「いいえ、私、そばの公園でベンチに座って、もう一度ハガキをしげしげと読み返していたんです。
そしたら、区役所だと書いているのに気がつきました。で、そっちへ行きました。」

「ふーん、集会所で誰にも会わなくて良かったねえ。もし『あなた、ここじゃありませんよ!』って言われたら、恥ずかしかったねえ。ハハハ・・・」

「はい、ヘヘヘ・・・」

こうしてカメ子も、無事国政に参加できたようです。

さあ、国民の期待はどう実るかなあ・・・・。
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