カーテンをくぐって
「おや、ノラ君、どこ行くと?」
ある夜のことです。
黒猫のノラオ君がいつもの寝場所、暖かいマダムの布団を出て、ベッドを降りると向こう側のムッシュの布団にフラフラしながら、歩いていきます。
「あらぁ、珍しい事があるね!」
マダムと娘さんが、顔を見合わせて驚きます。
「お父さんの布団なんか、入ったことなかったのに!」
ノラオ君はマダムの話によれば20歳を過ぎているそうです。病院のカルテでは、12年前が初診で、その頃すでに成猫でした。
最近は、老衰と腎不全で、点滴に通っていました。
「・・・とね、先生、そんなことがあったんですよ!」
マダムが挨拶に来てくださり、そう教えてくださった。
「まあ、珍しか! こりゃ、父ちゃんがもうすぐどうかなるばってん、ノラオが挨拶に行きよるとじゃないね!って、娘と二人でからかって、冗談を言ったんですけどね。
数日間、父ちゃんの布団に寝たんですよ。私が自分の布団に抱えてきても、また、父ちゃんの布団に行ったんです。
それにしても、ノラオは、父ちゃんに何を話したかったんやろか? 一度もそんなこと無かったのにねえ。
私の布団を出て、それからぐっと腰を落として仕切っている厚いカーテンをくぐって、父ちゃんの方へ行ったんですよねえ・・。」
(え! マダムと父ちゃんの布団の間に、厚いカーテンをしているのですか?・・・と、ちょっと気になりましたが、黙って聞いている院長。)
娘は、昔、子猫の頃にノラオを二本足で立たせては、時々柱に身長を測って印をつけたのを、しげしげと眺めてますよ。
私は日記をめくっては、昔ノラオが家出した時のことを思い出して・・・。
父ちゃんは、『仕事に、行きたくないのう』と、言いながら、出て行ってます。
ノラオが亡くなって、丁度一週間、やっと外出できる気分になりましたから、お礼に寄らせてもらいました。」
秋の陽ざしが優しい光を午後の待合室に投げかける静かな時間でした。マダムが立ち寄って下さり、そんな話をしてくださいました。
ある夜のことです。
黒猫のノラオ君がいつもの寝場所、暖かいマダムの布団を出て、ベッドを降りると向こう側のムッシュの布団にフラフラしながら、歩いていきます。
「あらぁ、珍しい事があるね!」
マダムと娘さんが、顔を見合わせて驚きます。
「お父さんの布団なんか、入ったことなかったのに!」
ノラオ君はマダムの話によれば20歳を過ぎているそうです。病院のカルテでは、12年前が初診で、その頃すでに成猫でした。
最近は、老衰と腎不全で、点滴に通っていました。
「・・・とね、先生、そんなことがあったんですよ!」
マダムが挨拶に来てくださり、そう教えてくださった。
「まあ、珍しか! こりゃ、父ちゃんがもうすぐどうかなるばってん、ノラオが挨拶に行きよるとじゃないね!って、娘と二人でからかって、冗談を言ったんですけどね。
数日間、父ちゃんの布団に寝たんですよ。私が自分の布団に抱えてきても、また、父ちゃんの布団に行ったんです。
それにしても、ノラオは、父ちゃんに何を話したかったんやろか? 一度もそんなこと無かったのにねえ。
私の布団を出て、それからぐっと腰を落として仕切っている厚いカーテンをくぐって、父ちゃんの方へ行ったんですよねえ・・。」
(え! マダムと父ちゃんの布団の間に、厚いカーテンをしているのですか?・・・と、ちょっと気になりましたが、黙って聞いている院長。)
娘は、昔、子猫の頃にノラオを二本足で立たせては、時々柱に身長を測って印をつけたのを、しげしげと眺めてますよ。
私は日記をめくっては、昔ノラオが家出した時のことを思い出して・・・。
父ちゃんは、『仕事に、行きたくないのう』と、言いながら、出て行ってます。
ノラオが亡くなって、丁度一週間、やっと外出できる気分になりましたから、お礼に寄らせてもらいました。」
秋の陽ざしが優しい光を午後の待合室に投げかける静かな時間でした。マダムが立ち寄って下さり、そんな話をしてくださいました。
2012-10-04 15:00
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