火事の知らせ
カレンダーをめくります。はやくも三月を迎えました。
三月と思うだけで、もうなんとなくのどかで、街に春が到来したような気分になります。
ところが空は墨のような雲に覆われ、朝からかなりの雨模様です。雷さえ鳴っています。
(うーむ、今日は、患者さんは出て来にくいだろうな。)
そんなことを思いながら、散らかった院長室で獣医書を読んでいた時でした。
「先生、お電話です。黒康さんという方からです。」
猫娘がそう言います。
(えっ? 黒康さん・・・どなたかな? )
「もしもし、お電話、代わりましたが、・・・」
「あっ、あの、黒康です。黒康かえでです、はい、奥さんの友人の、いつもお世話になっています・・・」
「ああ、ああ、かえでさん、」
「はい、あの、実は、今朝、家が焼けまして、今、公民館に避難して来てるんです。あわてて逃げるのが背一杯だったので、私、今も着ているのは寝巻き一枚なんです。
それで、携帯も焼けて、奥さんの電話番号もわからないので、病院にかけさせてもらいました。」
「えっ、それは大変だ! すぐ妻に伝えます。公民館ですね、はい、行かせます。え? 着る物が何もない。化粧道具もない?いいえ、かえでさんはスッピンで十分奇麗ですから。
でも、とにかく急いで行かせます。あの、お母さんもご無事ですか?・・・」
冗談には笑ってくれたので、精神的には大丈夫のようです。
私はすぐに妻に知らせに行きます。
ちょうど韓国ドラマを見ていた妻は、事の急を聞き、いざ親友の一大事とばかり、あわてて立ち上がったのはいいが、何を持って行ったらいいかと、あわあわ言って、うろたえるばかりです。
さて、その時は知らなかったのですが、その頃もまだ鎮火しておらず、中洲川端ではなお消火作業が続いていたらしいのです。
「えーと、かえでの着る物と、それとお母さんのものと・・・」
思いつく荷物をまとめて、妻は急いで中州に向かおうとして、はたと止まる。
「でも、中洲って、どっちかしら?」
「う・・・・あのね、・・・・・」
ようやく、妻を送り出す。
「知り合いが火事に遭ってしまったようなんです。」
「火事は怖いですねえ・・・。」
病院に戻ると、ちょうど腎臓病の治療に来られたネコのムウちゃん(仮名)の飼主マダムHと、火事の話になりました。
「うちもねえ、隣が火事で焼けた事があったんです。だけど、境界に立ち木があって、それで類焼が防がれたんです。」
「へえ、やっぱり、生きている木は、強いんですかねえ。防火作用があるんですねえ。」
火事は人生で積み重ねてきた物を、一瞬にして煙にし、無理やり整理してしまう。そんな話をしている間もムウちゃんは、いつもの如く、静かに点滴を受けてくれました。
さて、夕方です。帰ってくるなり、妻が不満気味です。
「ねえ、聞いてくれる?わたし、路上のパーキングメーターにちゃんとお金を入れて、公民館に行ったの。
そして、友達が用事で出ている間も、お母さんに付き添って、九十を過ぎられてるでしょ、
それでなにやらかにやらして帰ろうとしたら、駐車違反が張られているじゃない。だって私、不足分はお金を入れようと思って、コインも両替していたのに・・・。
火事であたりは車が多かったし、荷物を降ろしたかったし、そうそう、ちょうど市長さんも公民館に来られて、長引いたのに
それで、警察に『どうしてですか?』って聞いたら、『じゃあ、抗弁書を提出してください』ですって。私、絶対、提出するわ。」
・・・
状況は分かりますが、はたして彼女の言い分を、受け入れてくれるかどうか・・・?
火災に遭った友人にとっては勿論、わが家にも波乱の三月の幕開けとなりました。
三月と思うだけで、もうなんとなくのどかで、街に春が到来したような気分になります。
ところが空は墨のような雲に覆われ、朝からかなりの雨模様です。雷さえ鳴っています。
(うーむ、今日は、患者さんは出て来にくいだろうな。)
そんなことを思いながら、散らかった院長室で獣医書を読んでいた時でした。
「先生、お電話です。黒康さんという方からです。」
猫娘がそう言います。
(えっ? 黒康さん・・・どなたかな? )
「もしもし、お電話、代わりましたが、・・・」
「あっ、あの、黒康です。黒康かえでです、はい、奥さんの友人の、いつもお世話になっています・・・」
「ああ、ああ、かえでさん、」
「はい、あの、実は、今朝、家が焼けまして、今、公民館に避難して来てるんです。あわてて逃げるのが背一杯だったので、私、今も着ているのは寝巻き一枚なんです。
それで、携帯も焼けて、奥さんの電話番号もわからないので、病院にかけさせてもらいました。」
「えっ、それは大変だ! すぐ妻に伝えます。公民館ですね、はい、行かせます。え? 着る物が何もない。化粧道具もない?いいえ、かえでさんはスッピンで十分奇麗ですから。
でも、とにかく急いで行かせます。あの、お母さんもご無事ですか?・・・」
冗談には笑ってくれたので、精神的には大丈夫のようです。
私はすぐに妻に知らせに行きます。
ちょうど韓国ドラマを見ていた妻は、事の急を聞き、いざ親友の一大事とばかり、あわてて立ち上がったのはいいが、何を持って行ったらいいかと、あわあわ言って、うろたえるばかりです。
さて、その時は知らなかったのですが、その頃もまだ鎮火しておらず、中洲川端ではなお消火作業が続いていたらしいのです。
「えーと、かえでの着る物と、それとお母さんのものと・・・」
思いつく荷物をまとめて、妻は急いで中州に向かおうとして、はたと止まる。
「でも、中洲って、どっちかしら?」
「う・・・・あのね、・・・・・」
ようやく、妻を送り出す。
「知り合いが火事に遭ってしまったようなんです。」
「火事は怖いですねえ・・・。」
病院に戻ると、ちょうど腎臓病の治療に来られたネコのムウちゃん(仮名)の飼主マダムHと、火事の話になりました。
「うちもねえ、隣が火事で焼けた事があったんです。だけど、境界に立ち木があって、それで類焼が防がれたんです。」
「へえ、やっぱり、生きている木は、強いんですかねえ。防火作用があるんですねえ。」
火事は人生で積み重ねてきた物を、一瞬にして煙にし、無理やり整理してしまう。そんな話をしている間もムウちゃんは、いつもの如く、静かに点滴を受けてくれました。
さて、夕方です。帰ってくるなり、妻が不満気味です。
「ねえ、聞いてくれる?わたし、路上のパーキングメーターにちゃんとお金を入れて、公民館に行ったの。
そして、友達が用事で出ている間も、お母さんに付き添って、九十を過ぎられてるでしょ、
それでなにやらかにやらして帰ろうとしたら、駐車違反が張られているじゃない。だって私、不足分はお金を入れようと思って、コインも両替していたのに・・・。
火事であたりは車が多かったし、荷物を降ろしたかったし、そうそう、ちょうど市長さんも公民館に来られて、長引いたのに
それで、警察に『どうしてですか?』って聞いたら、『じゃあ、抗弁書を提出してください』ですって。私、絶対、提出するわ。」
・・・
状況は分かりますが、はたして彼女の言い分を、受け入れてくれるかどうか・・・?
火災に遭った友人にとっては勿論、わが家にも波乱の三月の幕開けとなりました。
2010-03-02 15:00
nice!(0)